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情報法政策学研究センター

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市場・知的財産・競争法

21世紀COE知的財産研究叢書 2

稗貫 俊文

『市場・知的財産・競争法』

有斐閣 2007

 

著書による紹介

(1) 本書は、知的財産権が重視され、保護が強化される時代に、その功罪を競争政策の観点から多面的に検討した論文集である。本書のコンセプトとその研究成果を紹介する。

(2) 本書によって著者が示そうとした法政策学的なコンセプトは次のようになる。

 世界の競争法と知的財産法は、そのグローバルスタンダードを求めるべきものであれば、まずは、それぞれの地域の経済に適合した法制度を探求すべきものである。
 米国の競争法や知的財産法を研究することは、日本では、過去においても、現在においても、きわめて有意義であり、学ぶべきことが少なくない。しかし、日本の競争法と知的財産法が日本国内でその地位を高めてゆけば、米国法の研究は、理論の研究だけでなく、その現実的な意義が厳しく問われるようになる。米国の競争法と知的財産法は、資源配分の効率性、生産の効率性、革新の効率性を求めて、きわめて流動性の高い社会を作り出している。これをみれば、それと同等のことが、日本で追求されるべき課題となるか再検討を要すると思われる。米国経済のような変化の激しさを支える社会的な基盤が日本には存在しない。談合ないし官製談合という日本経済の悪弊にようやくメスが入った現在、この地域の経済に適合する競争法と知的財産法のあり方が模索されなければならない。
 このことと関連して、著者は、知的財産権と競争法のあり方について、東アジア法を視野に入れるようになった。東アジアの経済法(知的財産権や競争法)を学ぶことは深い気づきを私たちに与えてくれる。欧米の経済法を研究しているときには、自明の前提として問うこともない事柄が東アジアでは問題となる。東アジアでは、競争法と知的財産法においても、はたして裁判制度がうまく機能しているか、それを支える法曹が存在するか、を問うことが重要である。東アジアでは、そうしたことが不十分であったり、欠如したりすることが多い。そのことは近代法がどのような前提によって支えられているのかということを逆に私たちの教えてくれる。このような「遅れ」のなかにこそ東アジアの現代法としての最先端の課題が隠されている。東アジア法を比較研究することは東アジアの一国たる日本法を映す鏡をみることにほかならないからである。そこから競争法や知的財産法にとどまらず日本法の現状を改めて深いところから学ぶ動機が得られるのである。

(3) 本書は、以上のような法政策学的コンセプトで、米国のバイオテクノロジー、ビジネスモデル特許、医薬産業、欧州のソフトウェア保護、開発途上国の知的財産などグローバルで、多様な知的財産法の諸側面を競争法と競争政策の観点から検討した論文集である。その検討成果をマイクロソフト(以下「MS」とする)事件を例に説明しよう。

 著者は、当初、米国の第3次MS事件の和解案の成立と2002年11月の同意判決をみて、和解案は、よくできていると考えた。それはウィンドウズの設計段階では自社の応用ソフトを統合するMSの製品設計の自由を認めつつ、流通段階ではMSの干渉を排してユーザー(PCメーカーなどのOEMを含む)の応用ソフトの選択の自由を確保するというものである。バランスのとれた課題の解決であると考えた。欧州でも、アジアでも、このような解決策が広く採用されるだろうと著者は予想した。
 しかし、事態はそのような展開しなかった。欧州委員会は2004年3月に、韓国の公正去来委員会は2005年12月に、それぞれの競争法違反を理由に、この種のソフトウェアの統合ないし抱き合わせに対して、ウィンドウズから応用ソフトを切り離せという救済策を命じたのである。
 米国の競争当局(司法省反トラスト局)の考え方は、独占者であっても、革新的な成果を生み出す期待がもてるときには、規制の行き過ぎ(False Possitive)に気をつけなければならないということである。独占者に挑戦する競争者に公平な事業活動の機会の保証する試みは、行き過ぎた規制(False Possitive)を生むということである。しかし、それだけが知的財産と競争政策の正統な関係であるといわれれば、そうであってはならないといわざるをえないであろう。知的財産法と競争政策の正統な均衡はほかにもありうると考えなければならない。欧州委員会や韓国の競争去来委員会は、ソフトウェア製品の革新の擁護よりも優先すべき競争政策上の価値を別に見いだしたのである。それは競争者の公平な競争の機会を確保するという競争政策上の価値にほかならない。法制度と政策の多様性こそが経済のグローバル化に対応する道である。

(稗貫 俊文)

目次

序章 知的財産権と独占禁止法21条

はじめに

第1節 知的財産権の濫用と独占禁止法21条

1 独占禁止法21条の趣旨  2 学説の展開  3 独占禁止法21条の「権利行使と認められる」行為の内容の検討

第2節 実質的な権利行使の意義

第3節 純粋のライセンス拒絶と独占禁止法21条

1 純粋のライセンス拒絶  2 トリンコ事件連邦最高裁判決  3 知的財産権の純粋なライセンス拒絶と独禁法21条

第1部 PCソフトウェアと競争政策

第1章 標準化,抱き合わせ,接続情報の提供拒絶,NAP条項−−コンピュータ・ソフトウェア産業における競争政策の課題

第1節 ネットワーク効果と独占力

1 PCソフトウェア産業における市場の多層性  2 ソフトウェア産業における規模の経済と独占化傾向  3 ソフトウェア産業における持続的な独占化傾向  4 PCソフトウェア産業における事業者の競争戦略

第2節 競争事業者間で合意・共有される標準規格と競争問題

1 標準規格の共有の競争政策上の問題  2 競争制限的な逸脱行為の兆候  3 ボイコット問題  4 規格標準メンバーの内部秩序の問題−NAP条項を中心に

第3節 OSを支配する事業者によるAPの抱き合わせと技術情報の提供拒絶

1 「抱き合わせ」行為と市場の多層性  2 技術情報の提供拒絶,NAP条項

総論に代えて−−競争者の保護か,競争の保護か

第2章 ソフトウェア商品の抱き合わせに対する当然違法の法理の適用の妥当性−−米国の第3次マイクロソフト事件控訴審判決を素材にして

はじめに

第1節 抱き合わせに対する当然違法の判例法李とMSの行為

第2節 当然違法の法理の問題点

1 当然違法の法理における「二つの別の商品」基準の不適合  2 新しい機能を追加するソフトウェア製品に対する裁判所の未経験

第3節 地裁への差し戻しの際の指示

おわりに

第3章 欧州におけるコンピュータ・プログラム保護と競争政策

はじめに

第1節 ECの競争政策と知的財産権

第2節 コンピュータ・プログラム保護に関するEC理事会の指令の競争法上の含意

第3節 特許ノウハウライセンス契約の一括免除規則の2001年の評価レポート

第4節 相互運用性(interoperability)と支配的地位の濫用

おわりに

第2部 医薬品産業と競争政策

第4章 リサーチツール特許のライセンス問題−−日本のバイオテクノロジー産業と競争政策

はじめに

第1節 リサーチツール特許に関する日本の医薬品産業の知的財産法上の課題

1 医薬品産業の現状  2 リサーチツール特許に関する医薬品産業の課題

第2節 医薬品産業における競争政策の課題

1 リサーチツール特許のライセンス拒絶  2 ライセンスの障害となる高額ロイヤリティ  3 リサーチツールライセンス協定(RTLA: Reach Through License Agreements)

結論

第5章 リード化合物と公正競争・企業結合規制−−日本の医療薬品産業と競争政策

はじめに

第1節 日本の医薬産業の特色

1 医薬産業における基礎研究と開発(臨床試験)  2 新薬の開発(臨床試験)  3 新薬の開発の平均の期間と費用,開発情報の公開  4 「公取調査」:リード化合物は研究開発段階の産物

第2節 サイエンス型産業と研究開発行動

1 市場構造主義から市場行動主義への観点の転換  2 合併・提携・取引  3 動的な競争のジレンマ  4 経験としての「動的な競争」との接点

第3節 リード化合物を巡る合併と公正取引

1 合併  2 不公正な取引方法の自由競争阻害基準  3 再び流通・取引慣行ガイドラインの構造基準

結論

第3部 日本の知的財産権の近年の動向

第6章 音楽レコードの国内還流防止措置と公正取引委員会

はじめに

第1節 立法の背景

第2節 隣接著作権の意義と著作権との区別

1 著作隣接権制度の存在理由  2 著作隣接権と著作権の関係

第3節 著作権法改正の検討の観点−−業界保護法への変質リスク

第4節 競争当局の懸念表明と知的財産権当局の対応

1 公正取引委員会の価格硬直に関する懸念表明  2 競争政策と「見なし侵害」方式の採用の意義  3 文化庁の立法過程の議論の問題点

第5節 今回の著作権法の改正にかかる競争政策上の歯止めの評価

結びに代えて

第7章 ビジネスモデル特許と遺伝子関連特許と競争政策−−出願審査・無効審判等の手続面からのアプローチも含めて

はじめに

第1節 ビジネスモデル特許

1 「コンピュータソフトウェア関連発明」  2 ビジネスモデル特許の競争政策上の問題

第2節 バイオ関連特許

1 ヒトゲノム創薬  2 基礎研究と薬品開発の垂直的な産業構造  3 バイオ産業における米国の優位  4 米国における特許権の弊害面  5 日本のバイオ産業の現状

第3節 競争政策上の対応

1 特許付与前の予防施策  2 特許付与後の対応措置  3 独占禁止法の施策

結論

第4部 知的財産権と東アジア

第8章 東アジアの知的財産権について−−その理念・現状・戦略

はじめに

第1節 東アジア共同市場に相応しい原理の探求

第2節 望ましい制度を実現するのが困難な政治的環境

第3節 東アジアの戦略的選択

結び

第9章 日本の知的財産権強化と競争政策:報告要旨−−ライセンス拒絶に関連して

第1節 知的財産立国論

第2節 近年の知的財産権の強化の動向

第3節 競争政策の重要性の認識

第4節 公正取引委員会の対応

第5節 ライセンス拒絶の競争法上の評価

結論に代えて

第10章 東アジアにおける知的財産権の保護−−日本における知的財産権の保護の最近の動向を中心に

はじめに

第1節 知的財産権制度の必要性と社会的便益−−経済理論と現実

1 経済理論からみた知的財産権  2 歴史的現実からみた知的財産権

第2節 日本の技術革新・知的財産権の強化策とその背景

1 日本の技術革新・知的財産権の強化策  2 日本の知的財産権強化への転換の背景

第3節 中国における知的財産

第4節 知的財産に関する東アジアの協力

第5節 結論

更新日 2013.11.27