ページ上に戻る ページ上に戻る

情報法政策学研究センター

menu

市場・自由・知的財産

21世紀COE知的財産研究叢書 1

田村 善之

『市場・自由・知的財産』

有斐閣 2003

 

著書による紹介

 本書は、21世紀COE叢書の第一冊目として、知的財産法の総論に関わる論文を中心に編纂し、本拠点の研究の方向性を示した論文集である。
 第一論文「市場と組織と法をめぐる一考察-民法と競争法の出会い」は、競争に関わる分野においては市場に委ねれば足りるものに関しては市場に委ねておけば良いのであるという発想の下、いかなる場合に市場に任せておくことなく法が介入すべきなのかということを判断する基準を検討する論文である。
 具体的には、特約店に対し化粧品メーカーが化粧品の対面販売を義務づけ条項が不公正な取引方法に該当するか否かということを論じるに際し、「それなりの合理性」があるか否かという基準を持ち出したかのように読める最判平成10.12.18民集52巻9号1866頁[資生堂]を題材としながら、「それなりの合理性」がなくとも、市場が機能しているのであれば、あえて法が介入するまでもなく市場の淘汰に委ねればよく、他方、特約店が関係特殊的投資をなしているためにロックインされており、契約の不完備性の問題があるために、ホールドアップが生じる状況では、関係特殊的投資を促すためには、法の介入はより積極的なものであることが望まれることを指摘する。続けて、こうした発想を要件論に導入するために、独占禁止法上の市場画定の際に、ロックインがある毎に狭い市場を観念する考え方を採用すべき旨を提唱する。そのうえで、情報の偏在、弱者保護、契約の継続性等のその他の視点を導入すべきかどうかという議論を検討したうえで、競争に関わる法の分野において独占禁止法等の政策的な法と異なる原理が民法にあるのかという根本的な問いかけをなすことで論文を結んでいる。
 第二論文「知的財産法総論」は、以下に述べる3つのステップで、知的財産法制度の解釈論や立法論を展開すべきである旨を提唱するものである。
 第一に、市場と法の役割分担という視点を意識し、どこまでを市場に任せておけば足り、どこから法が介入すべきなのかという分岐点を探る(市場指向型知的財産法の視点)。第二に、かりに法の決定が必要であるとした場合、次のステップとして、その法的決定をどの機関に判断させるべきなのか、たとえば裁判所が判断するだけでよいのか、専門機関(特許庁等)の判断を介在させた方がよいのか、という法的判断主体の役割分担の問題設定を行う。くわえて、その際には、報酬請求権(損害賠償請求権を含む)に止めるのか、それとも差止めまで認めるのか、登録制度を介在させて権利の譲渡を容易とする保護を与えるのか、という規制手法の選択を行うことで法制度の具体化を図る(機能的知的財産法の視点)。第三に、以上の作業により構築された法の規律が私人の思索の自由、行動の自由を過度に制約するものになっていないか、吟味する(自由統御型知的財産法の視点)。
 第三論文「特許発明の定義」、第四論文「特許権の行使と独占禁止法」、第五論文「インターネット上の著作権侵害行為の成否と責任主体」は、様々な知的財産法の論点のなかでも、知的財産法の総論がストレートに解釈論や立法論に結びつきやすいテーマを選んで論じたものであり、第六論文「効率性・多様性・自由-インターネット時代における著作権制度のあり方」 は、効率性と自由という知的財産法制度が追い求めるべき二つの相反することもある価値の相剋を論じている。
 最後に、その後の21世紀COEにおける研究との関係で、総論に当たる第一論文と第二論文の位置づけを明らかにすることで、本書の紹介を結ぶことにしよう。
 第一論文は、そのほとんどが独占禁止法と民法との関係を論じる叙述で占められているが、知的財産法を競争政策に関する法として捉えるとともに、市場と法の役割分担という視点を打ち出す筆者の構想にとって、知的財産法政策学の発想のもっとも基本となる部分が語られている論文であるということができる。なお、この第一論文で論じた最後の論点は、叢書発刊後も21世紀COEプロジェクトの下で研究を続けた結果、民法は、少なくとも競争政策に関わる民法とそうではない民法に分化するということを指摘する田村善之「競争政策と『民法』」NBL863号(2007年)に結びついている。
 第二論文は、知的財産法政策学のプロトタイプとなるべきものである。その後、21世紀COEプログラムを遂行する過程で、これらの3つのステップにより知的財産法の制度を設計する際に、さらにプロセス志向という視点を加味すべきであるということに思い至った。もともと、市場指向型・機能的・自由統御型知的財産法という思考方法は、市場、立法、行政、司法の役割分担により、効率的な制度を実現するとともに、自由を確保することを意図するものであり、プロセス志向という発想を内に抱えるものであった。両者は、いわば、知的財産の制度の設計のあり方を説く知的財産法策学の縦糸と横糸として機能するものである。その成果は、田村善之「知的財産法政策学の試み」知的財産法政策学研究20号(2008年)に示されている。

(田村 善之)

目次

第1章 市場と組織と法をめぐる一考察――民法と競争法の出会い

序節

第1節 市場と法の役割分担

1 資生堂上告審判決  2 市場が機能している場合  3 市場が機能していない場合

第2節 中間組織に対する法規制のあり方

1 法の介入が必要とされる場合  2 機会主義的行動の抑止策

第3節 独占禁止法に基づく規制との関係

1 優越的な地位の濫用規制と独禁法における市場の意味  2 市場の画定作業の意義 3 予想される論点

第4節 その他の視点について

1 情報の偏在  2 弱者保護  3 継続的契約

第5節 その他

第6節 むすびにかえて

補章1 市場と組織と法をめぐる一考察[要約版]――民法と競争法の出会い

補章2

第2章 知的財産法総論――市場指向型・機能的・自由統御型知的財産法の試み

序節 知的財産法の趣旨を考える―香りのタイプ事件を題材に―

1 はじめに  2 本当に同じ香りなのか?  3 消費者が混同することはないか?  4 製法に問題はないか?  5 フリー・ライドをどう考えるか?

第1節 市場と法の役割分担(市場指向型知的財産法の発想)―商品形態のデッド・コピー規制を題材に―

1 はじめに  2 不正競争防止法2条1項1号・2号  3 不正競争防止法2条1項3号の趣旨  4 不正競争防止法2条1項3号における「模倣」の意義  5 市場と法の役割分担――市場指向型知的財産法の発想

第2節 法的判断主体間の役割分担(機能的知的財産法の発想)―特許侵害訴訟における無効事由の取扱いを題材に―

1 はじめに  2 前提問題――新規性喪失  3 問題の所在  4 裁判例  5 当然無効の抗弁  6 特許庁と裁判所の役割分担が問題となる他の一例――均等論における仮想的クレイムの理論  7 法的判断主体間の役割分担――機能的知的財産法の発想

第3節 自由の領域の確保(自由統御型知的財産法の発想)―プロヴァイダー等の責任論を題材に―

1 はじめに  2 問題の所在  3 厳格責任説の論拠  4 厳格責任説の問題点  5 著作権法の第三の波  6 知的財産法における自由の領域の確保――自由統御型知的財産法の発想

第3章 特許発明の定義――「自然法則の利用」の要件の意義

序節

第1節 「自然法則の利用」要件に関する裁判例

第2節 「自然法則の利用」要件の起源

第3節 「自然法則の利用」要件の現代的解釈

1 3つの視点  2 市場と法の役割分担(市場指向型知的財産法の視点)  3 法的判断主体間の役割分担(機能的知的財産法の視点)  4 私人の自由の確保(自由統御型知的財産法の視点)

第4節 自然法則の発見と利用を区別する考え方について

第5節 その他の問題

1 プログラム・ネットワーク関連発明  2 ヒトの遺伝子情報に関する発明

第4章 特許権の行使と独占禁止法

序節

第1節 独占禁止法21条論

1 問題の所在  2 特許法と独占禁止法の趣旨という視点からの考察  3 特許庁と公取委の役割分担という視点からの考察  4 小括

第2節 特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針の検討

1 特許権の行使に対する考え方について  2 ライセンス拒絶の取扱いについて  3 競争阻害効果と競争促進効果の衡量について  4 独占禁止法の体系的理解について  5 その他の問題

第3節 むすびにかえて―特許権の行使を判別する基準―

第5章 インターネット上の著作権侵害行為の成否と責任主体

序節

第1節 アメリカ合衆国法の示唆

1 アメリカ合衆国法の動向  2 日本法への示唆

第2節 日本法の解釈論

1 はじめに  2 クライアントの責任  3 サーバー管理者の責任  4 ユーザーの責任  5 リンクの法的評価  6 著作者人格権侵害について

第3節 インターネットと属地主義

第6章 効率性・多様性・自由――インターネット時代の著作権制度のあり方

序節

第1節 効率性の視点―取引至上主義(Pro-transactionist)と契約価格差別理論(contractual price discrimination model)とその陥穽

第2節 多様性・多元性

第3節 技術の進展と著作権法における自由

第4節 まとめ

更新日 2013.11.27