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附属高等法政教育研究センター

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 刊行物・活動報告詳細

J-mail No.1 2000 Summer

CONTENTS・・・・・・・・・・・・Summer,2000
●ニューズレター発刊のごあいさつ:センター長 山口 二郎
●J-Review:新蔵 博雅
●センター開設によせて:磯田 憲一/城山 英明
●Essay:中村 研一
●Sympossium Report
●Livres Favoris【読む】:辻 康夫/尾崎一郎
●Schedule&Information
●共同研究プロジェクト

 

ニューズレター発刊のごあいさつ

新しい知的共同体を目指して

DIRECTOR OF ACADEMIA
山口二郎●高等法政教育研究センター長

 高等法政教育研究センターは、北海道大学法学部の大学院重点化に伴い2000年4月に開設されました。このセンターは、法律・政治の分野中心に、実務との交流を通した先端的・実践的な共同研究や、市民社会との交流による新たな知の創出を目指すという意気込みで作られた、新しい組織です。地方分権が進む一方で、地域の政策課題が複雑化する今、地域社会に積極的に発言することも、このセンターの大事な役割と考えています。

 この度、当センターで季刊のニューズレターを発行することになりました。このニューズレターでは、センターの研究や各種企画に関する情報だけではなく、法学研究科のスタッフによる寄稿、書評、さらに学外の研究者、実務家から当センターに対する提言、注文などをいただき、自由な議論の場にしていきたいと思っています。このセンターの企画で、聞いてみたい話、会ってみたい人などについて、ご要望、ご意見を読者の方々からお寄せいただければ幸いです。
 学問の細分化が進む一方、いま大学の存在意義が改めて問われています。とかく最近の特に若い世代の学者は、読者を想定しない文章を書いて、アカデミズムの蛸壺にはまりがちです。しかし、いまこそ大学における研究について積極的に社会に説明し、市民の共感を得ることが求められています。ささやかなメディアではありますが、このニューズレターを通してセンターを地域社会に開かれた知的共同体に育てていきたいと念願しています。

 

J-Review

いまを、斬る●
政治家の資質と落選運動

TEXT:新蔵博雅●北海道新聞政治部長
   HIROMASA SHINKURA

 「日本は天皇を中心とする神の国」という時代錯誤な発言によって、森喜朗首相の資質がより厳しく問われている。首相就任当初からマスコミは「サメの脳ミソ、ノミの心臓」などと評したが、最高権力者の人格をこれほど辛辣に形容したのは異例なことだった。これまで日本のマスコミは、政治家の資質に関する報道には控えめだった。及び腰だったと言い換えてもよい。特に選挙ともなれば、候補を適当に持ち上げるか、当たり障りのないことを書くことが多かった。”タマ”、つまり資質の問題は決定的に大きいのに、これについてのマスコミ情報は、有権者を満足させるところまで至っていなかった。それは、面と向かって個人攻撃をしないという伝統的な「和の精神」にもよるのだろうが、実はマスコミ側が候補の資質を評価するだけの情報を持ち合わせていないか、報じた場合の相手の反撃をあらかじめ避けようとするからにすぎない。新人候補の場合、過去の政治行動などはほとんど分からないから、つい甘いタッチで紹介することになる。その兼ね合いで、経験者に対しても甘くなる。選挙報道は「公平」でなければならないからである。結果として知名度に勝る経験者が有利になる。

 経験を重ねた政治家に対するマスコミの態度には別の要素が働く。情報を得るためには懐に飛び込まなくてはならず、距離を縮める結果、批判の矛先が鈍るというものである。しかし、みんなで書くと怖くないから、いったん評価が定まった相手に対しては徹底的に資質評価を繰り広げる。「サメの脳ミソ」報道は、こうして成りたった。もちろん、書かないよりはずっと良い。だが、ふだんからもっと書いておけば、森氏が首相になることはなかったかもしれない。昨今流行の落選運動についての評価はまだ早いが、こうした運動が芽生える背景には、政治家ばかりでなくマスコミの政治報道への不信もあるように思う。

 

センター開設によせて

高等法政教育研究センターに期待するもの●
市民・大学・行政の連携に向けて

北海道総合企画部長●磯田憲一

 地域の知恵と潜在力をいかに引き出すかが問われる分権時代、大学は、地域全体の「知」の拠り所として、蓄えた「知」を地域に還元し、いかに関わりを持って行動できるかが、その評価の重要な基準になるのではないでしょうか。
 高等法政教育研究センターはそうした地域と時代の要請に応えるために設立されましたが、地方自治体、大学、そして地域づくりの主役である市民、三者の協働・連携に取り組まれ、21世紀の分権時代にふさわしい自主・自律の地域社会確立に向けて、その役割を大いに発揮していただきたいと願っております。
 自己決定・自己責任を原則とする自立した地域社会を創るためには、これまでの画一、横並び志向を乗り越え、それぞれの地域の特質を踏まえて、21世紀の北海道にふさわしい新たな価値観、いわば北海道スタンダードを作り出していくことが大切であると思います。
 212市町村と570万道民の知恵と勇気が問われている今、高等法政教育研究センターが、教育、研究、そして実践を通じて、北海道の知恵と勇気の発信源となられることを心から期待しています。

 

社会科学の新たな課題●
学の融合と知的投資のすすめ

東京大学法学政治学研究科助教授●城山英明

 環境研究の分野では文科系と理科系との統合が説かれることが多くまた、理科系からの文科系への需要は予想外に高い。しかし、実質的共同作業がなされることは稀である。確かに、理科系の自己増殖の名目として文科系との統合が求められておりそもそも実質的共同を望むのは難しいという側面は否定しがたい。
 しかし、このような状況になる一因はやはり、文科系サイドの企業家精神の欠如であろう。相手方の文法の理解に多少コストをかけて工学・理学系の議論に内在的に関わってみると、政治学・行政学の観点からみて興味深い課題が山積みとなっている。例えば、技術選択の問題はリスク・トレードオフにどう対処するのかという優先順位設定の問題であり、リスク評価の問題は不確実性への対応という意思決定の重要問題である。このような課題に取り組むことは政治学・行政学の市場を一気に拡大するのみならず、内在的にも大変興味深い領域であり、知的投資を行うに値すると思われる。

 

Essay

20世紀の発見●宇宙からの地球像

TEXT:KENICHI NAKAMURA
北海道大学法学研究科教授 中村研一

 20世紀を象徴する事件は何か?多くの人が「アポロ11号による月面着陸」と答えている。確かに”月旅行”は人類史のロマンだった。あのケプラーも、天体を観測しながら思いを巡らし、『ソムニウム(夢)』という、月に移住する話を書いている。そしてジュール・ベルヌの『月世界旅行』では、地球すべてを発見しつくした後、なお好奇心をかきたてる”最後のフロンティア”に向かって、宇宙船が旅だっていく。
 ところが31年前、アームストロング船長らに対し、ニクソン大統領は「運命は、月面探査に赴いた男たちが、月面でやすらかに永眠することを定めた」と始まる追悼演説文を準備していた。権力者とNASAは、”夢の実現”を演出しながら、二人の人間が月面に置き去りになる最悪事態に冷徹に備えていた。地球に帰れないと悟った飛行士たちの、月面での最後の言葉も、事前に準備されていたかもしれない。
 大航海時代は近代人の模型を生んだ。絶海の孤島に取り残されながら徒手空拳で文明を築くロビンソン・クルーソーである。しかし空気も水もない月に、クルーソーは生まれない。では、月旅行は20世紀に何を残したのか。それは未知との遭遇ではなく<地球外に出て、一つのものとして地球を見てはじめて、この惑星と人のトータルな関わりが認識できた>という、宇宙からの帰還者たちの地球像なのであった。

 

Sympossium Report

スコットランド地方分権と地域自立戦略の展開●
政治に夢を取り戻すために

2000年5月11日 北海道大学学術交流会館小講堂にて

 5月11日、高等法制教育研究センターの開設を記念し、北海道対外文化協会との共催により、スコットランド地方分権に関するシンポジウムを開催した。講師のイゾベル・リンゼイさんはストラスクライド大学で政治学を教える研究者であると同時に、長年地方分権運動の中心として活躍し、現在も様々な市民運動のリーダー役を務めている。
 前半の講演の中で、彼女は分権を求める市民運動(スコットランド憲政会議)を振り返り、1980年代の保守党全盛期に実現の可能性が見えなくても、変化の可能性を信じて粘り強く運動を続けることの重要性を指摘した。また、同時にいつ変化の機会が訪れてもそれを生かすことができるように、実現可能な案をつねに練り上げ、手元で温めておくことが必要だとも力説した。97年の労働党政権発足後における分権の急展開の背後には、長年の憲政会議における討論と準備の積み重ねがあったという指摘は説得的だった。
 実際に新しいスコットランド議会が発足してちょうど1年経過した時点での評価について、リンゼイさんはおおむね肯定的であった。政党の内紛や議事堂建設の不手際など混乱もあるが、大学の学費徴収問題について中央政府の有料化方針に対してスコットランドでは無料を維持するという明確な差異化が実現されている。また、教育や産業開発についてもスコットランド議会の委員会で独自の政策に向けた調査活動が精力的に行われている。これらの点から、分権は地域における自主的な政策決定をもたらしているというのがリンゼイさんの評価である。後半のシンポジウムでは、私とリンゼイさんが対談を行った。その中で最も印象的だったのは、分権と経済、財政的自立の関係という論点をめぐる彼女の見解であった。地域間の財源の再分配はどの国でも難しい問題である。しかし、富の偏在は政治的な中心をどこに置くかということによって引き起こされた面もある。だから政策的自己決定を高める意味での分権、自立と、財政的平準化により支援を受けることとは矛盾しないと彼女は力説した。また分権を実際に進めることによって、スコットランドの経済はさらに活性化しているとのことであった。スコットランドと北海道はいくつもの前提条件の違いがあり、単純な模倣はもちろん不可能である。しかし、北海道における分権の実現に向けていろいろな意味で勇気づけられる話だったと思う。

山口二郎 記

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Livres Favoris

『同時代論』

市場主義とナショナリズムを超えて
間宮洋介著
岩波書店 1999年

 本書は著者が過去10年間に発表した評論を収めたものである。政治・経済・思想の広いテーマが論じられるが、これらを貫く関心は新しい「公共性」の構想である。著者は一方で、市場の論理の貫徹が引き起こす危険と、これを適切に論じ得ない経済理論の欠陥を指摘する。他方、伝統的共同体への回帰や国家主義が問題を解決せず、むしろ重大な危険を孕むことを指摘する。著者が構想するのは、多様性と平等性を基本的原理とする公共空間である。これには、言論の空間、自治の空間、生活空間(地域)など多様なものがありうるが、生活空間としての都市論は特に刺激的である。本書は、現代の重要問題について質の高い議論を展開し、政治的に誠実に生きるための示唆を与えてくれる。

辻 康夫

 

『「知」の欺瞞』

ポストモダン思想における科学の濫用
A・ソーカル/J・ブリクモン著 岩波書店2000年

 かつてC・P・スノウが歎じた自然科学と人文=社会(科)学の「二つの文化」の乖離は、いまや後者の「ポストモダン思想」が前者の「概念や術語をくりかえし濫用し」て行っている無内容な「ばか噺」の巧みなパロディー論文を物理学者が披露し大論争を惹起する事態に至った。本書が執拗に暴露するラカン、イリガライ、ドゥルーズ等々による物理学・数学の出鱈目な引用の実例は確かに抱腹ものだ。さらに著者は「認識的相対主義」を批判し、自然科学が社会的構築物にすぎないという見方を拒否する。ただ、性・人種差別に纏わりつく生物学(脳科学)的本質主義が「科学」的知見に根ざしていることも事実だ。「構築」が問題となるのは物理学、数学以上に生物学なのかもしれない。

尾崎一郎

Schedule&Information

市民に向けて開催するシンポジウムのスケジュール

Jul-Nov.2000

1) シリーズ・どこへ行く日本の民主主義 Part1(2000年7月11日開催予定)
・・・ミレニアム総選挙を斬る・・・

● 世紀末の総選挙で国民は何を選んだのか。鋭い舌鋒で定評ある2人を招き徹底分析
パネリスト●田中秀征・石川真澄/コーディネーター●山口二郎
※ Part2以下、2000年秋以降に開催予定

2) アメリカ知的財産法の最新動向(2000年7月27日開催予定)
・・・知的所有権紛争の現状と展望・・・

● 現在国際紛争の焦点となっている知的財産権法のスタンダード形成について、専門家が分析
パネリスト●松本直樹・平嶋竜太・芦立順美・和久井理子・田村善之

3) 21世紀の政策アジェンダ(2000年11月11日開催予定)
・・・グローバリズムへの対抗戦略・・・

● グローバリズムとナショナリズムに挟撃される21世紀日本のヴィジョンを問う、論客による徹底討論
パネリスト●金子勝・高橋哲哉 他/コーディネーター●山口二郎

公開シンポジウムの問い合わせ●Phone 011・706・3119

 

共同研究プロジェクト

2000年度のテーマより

1) ガバナンス部門
テーマ●地域自立に向けた政策金融の新たな役割を考える。
活動内容●企業経営者・金融機関・地方自治体といった現場のヒアリングから、地域政策の実状や問題点を浮き彫りに。また、PFI・NPOなど具体的な官民連帯の事例を研究し、政策金融と地域の新たな関係を提言する。

2) 法動態部門
テーマ●ヴァーチャル・ワールドの法原理を考える。
活動内容●コンピュータ・ネットワークが作り出す様々な経済・文化活動を取りまく新たな法律問題を、学識者・法律の実務家などで討議する。

3) グローバリゼーション部門
テーマ●世界レベルでの政治・経済の大きな流動化が各国にもたらすインパクトについて考える。
活動内容●金融や環境をめぐる国際的ルールづくり、安全保障政策の変容などグローバリゼーション問題を考察。政策決定の第一線で活躍する実務家を招聘し、ヒアリングや討論を行う。

 

Staff Room●Cafe Politique

Master●書いたものを通してだけ私を知っている人が初めて私に会って、年齢の話になったとき、いつも「え、先生そんなに若いんですか」と驚かれてきた。論壇に出たのは早いし、そんなに明るい顔でもないので、実際以上に老けて見られてきたわけである。しかし、最近はややイメージが変わっているのかなと自分では思う。センター長の仕事の一部をしていて、文化祭の企画を立てたり、同人誌の編集をしていたりという高校、大学時代を思い出し、本人としては若返っているつもりだからである。

Garcon●「ほんの、スケジュール管理と郵便物の整理ぐらいですから・・・」マスターにダマされ軽い気持ちでお手伝いを引き受けたお馬鹿な私。センター開設早々、国際シンポジウムを開催!?本業(フリーの編集記者)の締め切りも抱え、超タイトな時間と闘いチラシ・ポスター・プログラムを家族まで動員して作成。息も絶え絶えなところに、今度は司会をヤレという。構成をたて、原稿を書き、進行表まで作った。が、しかし・・・。やれやれと思うまもなくセンターのリーフカット・ニューズレター・シンポジウムをまとめる小冊子の編集が私を襲う。鶴の千羽織状態である。私は夕鶴の”おつう”かヘラクレスか?グ、グレてやるぅ。

 

Hokkaido University ●The Advanced Institute for Law and Politics

J-mail●第1号
発行日●2000年7月14日
発行●法学研究科附属高等法政教育研究センター[略称:高等研]

〒060・0809 ●北海道札幌市北区北9条西7丁目
Phone/Fax●011・706・4005
E-mail●academia@juris.hokudai.ac.jp
HP●https://www.juris.hokudai.ac.jp/~academia/

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公開シンポジウムのお問い合わせは Phone●011・706・3119まで

【Academia Juris】