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附属高等法政教育研究センター

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 刊行物・活動報告詳細

J-mail No.2 2000 Autumn

CONTENTS・・・・・・・・・・・・Autumn,2000
●J-Review:浜田 康行
●Research Update:畠山武道/藤原正則
●Sympossium Report
●Essay 私のユートピア:川島 真
●Art&Culture【読む/観る】:吉田邦彦/尾崎一郎
●Schedule&Information
●Academia Juris 活動報告/Staff Room

 

J-Review

いまを、斬る
 「ゼロ金利の経済学」

浜田康行●北海道大学経済学研究科教授

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 ゼロ金利が解除された。実に1年5ヶ月も続いた、世界史的にも例を見ない異常事態がようやく終わった。
 当初は一時的と思われたゼロ金利がなぜかくも長く続いたのか。それは、この異常事態を歓迎する勢力が日本にあったからだ。言うまでもなく、金利がゼロで喜ぶのは莫大な借金を抱えている経済主体だ。なんといっても断トツ一位の借金王は国家そのもの。そして民間に目を移せば大手ゼネコンとデパート。”そごう”の一件は、国民にいろいろな事を知らせてくれた。一企業の借金が1兆8900億もあったこと、債権放棄というやや理解しがたい救済策が推進されていたこと、ついでに瑕疵担保という闇まで見せてくれた。しかし、あれこれの救済策にもかかわらず結局そごうは民事再生法を選んだ。つまり倒産だから、これで彼らを救うためのゼロ金利という口実が意味をなさなくなった。
 金利は何から生じるか?実は経済学では論争がある。一番、有力なのは時間選好説だろう。現在の100万円は一年先の100万円より価値がある。だから現在100万円を人に貸して1年後に返済してもらう際、現在と一年後の差額が利子となる。簡単に言えば、”時は金なり”ということだ。ゼロ金利が異常だと言ったのは、このごく当たり前のことが否定されてしまうからだ。 資本主義というのは複雑そうに見えるけど実はいくつかの”当たり前”、あるいは常識の上に展開している。この体制が予想に反して長持ちしたのも、常識的であったからだ。しかし、最近、どうも怪しくなった。ゼロ金利は少しだけ修正されたが”非常識”はまだたくさんある。

 

Research Update

「循環型資源管理システムの構築にむけて」

畠山武道(行政法・教授)

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 今日、各種の資源の浪費とそれに伴う自然的・社会的コスト(マイナス)の大きさが問題となっている。限られた資源をどう保護し、再使用、再生利用、適正処分するか、そのためのシステムをどう構築するかは、法律学・政治学が取り組むべき緊急の課題である。
 本研究では、畠山、大塚直学習院大学教授(本センター研究員)、北村喜宣横浜国立大学助教授(本センター研究員)、福士明札幌大学教授が中心となって、特に最近の国内外の法制度の動向の検討を行っている。
 また、資源管理における市民参加、市民との協働のあり方を検討することも重要な課題であり、そのため去る10月28日、センターでは市民シンポジウムを開催した。

 

「遺産承継に関する比較法的研究」

藤原正則(民法・教授)

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 現在の私のテーマは、人(といっても、お金持ちに限られますが)が死んだ後に、なるべく相続税など税金の支払いを免れ、相続人間の紛争を少なくし、できる限り永く遺産を自分の思った通りの方法で活用するための法技術に関する、比較法的研究です。テーマ選択の理由は、いわゆる高齢化社会と自己責任の行き着くところは、個人の資産活用であり、その結果は前述のような厚かましい要請につながる、と考えるからです。もちろんこういったニーズに合理性があるのか、あるとしたらどの限りでか、ということ自体も検討対象です。最近のこの問題に関する私の業績は、新井誠編「高齢社会とエステイト・プランニング」(日評・2000年)のP185~233を御覧ください。

 

Sympossium Report

「どこへ行く日本の民主主義 Part1
ミレニアム総選挙を斬る」

 7月11日夜、クラーク会館大講堂において、田中秀征、石川真澄両氏をパネリストに招いて、当センター主催による公開シンポジウム「どこへ行く日本の民主主義 part 1」が開催された(コーディネーターは山口センター長)。6月25日に行われた総選挙の結果を分析し、今後の日本政治の行方を展望するというテーマのもとで、活発な議論が行われた。 石川氏は選挙の結果について、小選挙区比例代表並立制という制度、特に小選挙区制が自公保三党の安定多数をもたらしたことを強調した。民意を反映した政治を作り出すためには、選挙制度の改革が不可欠であると主張した。また、田中氏は今回の選挙では争点があいまいになり、選挙の後にも政治の勢いや変化がまったく見られないというところに大きな特徴があると指摘した。山口センター長は、選挙の不毛さについて両氏の見解に同意しながらも、森首相の発言に対する反発、民主党が提起した「苦い薬」への一定のまじめな反応など、今までの選挙にはない前向きの要素も見られると指摘した。 シンポジウムの後半では、21世紀の日本政治の行方について現実的なシナリオとあるべき姿の両面から議論が行われた。石川氏は、来年の参議院選挙が極めて大きな意味を持つと位置付け、今回の総選挙で現れたような民意の動きは続くだろうと予測した。そして、そのことが憲法問題に関する日本政治の暴走に歯止めをかけるポイントになると指摘した。しかし、他方で今後の政党政治が自民-民主という二大政党制に収斂していく可能性については悲観的で、むしろ五五年体制の焼き直しに終わる可能性があることを示唆した。田中氏は、差し迫った構造改革を実行する政治主体は既存の政界にはなく、外側から櫓を組むことの必要性を力説した。また、山口センター長は90年代における虚構の改革の失敗を繰り返さないようにすることが重要であることを指摘した。 会場には250名ほどの聴衆が集まり、熱心に質問を寄せ、議論を盛り上げた。なお、このシンポジウムの記録は、2000年10月岩波書店からブックレットとして出版された。

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「アメリカ知的財産法の最新動向 」

 7月27日午後13時30分から、北大法学研究科大会議室において、シンポジウム「アメリカ知的財産法の最新動向」が開催された。特許侵害訴訟における無効の抗弁の取扱いについて松本直樹弁護士、ビジネス・モデル特許について平嶋竜太筑波大学助教授、データベースの保護について芦立順美東北大学助手(現在同助教授)、知的財産権者のライセンス拒絶と独占禁止法について和久井理子大阪市立大学助教授から報告がなされた後、田村善之北大教授の司会の下、根岸哲神戸大学教授も議論に加わり、予定時間(4時間)をはるかにオーヴァーし、19時近くまで活発な討論が行われた。
 パネリストは、それぞれのテーマについて本格的な論文を発表したり、用意している新進気鋭の実務家と学者達であるところ、それぞれの報告では、論文には書かれていないい野心的な視点が打ち出されることもあり、議論を誘発したということができる。くわえて、知的財産法学の分野は、実務との交流が欠かせないところ、今回のシンポジウムの参加者には、パネリスト以外にも、弁理士、弁護士など実務家がおり、相互に有益な情報の交換をなすことができた。今回のシンポジウムを契機に、通常はなかなか一同に会することができないパネリスト相互の間で、インタラクティヴなやりとりをなすことができたことも、シンポジウムの一つの成果ということができよう。

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「どこへ行く日本の民主主義 Part2
 自民党に明日はあるか」

 10月13日、クラーク会館大講堂で連続シンポジウム「どこへ行く日本の民主主義part2」として、中谷元、田中真紀子両代議士をゲストに招いて、「自民党に明日はあるか」を開催した。次期首相候補として国民的な人気も高い田中代議士が来学するとあって、当日は道内各地から700人ほどの聴衆が集まり、会場は立錐の余地もないほど盛況であった。両氏は基調講演の中で、現在の連立政権の中で自民党内における政策論議が沈滞し、重要な政策が十分な議論もなしに決められる状態にあることを指摘した。そして、6月の総選挙で示された民意を謙虚に受け止めたうえで、若手議員が中心になって党内の改革を進める決意を示した。
 後半のパネルディスカッションでは、山口センター長が司会を務め、自民党改革派の政策理念や21世紀日本のビジョンについて質問をしながら、改革の課題と進め方について議論を行った。両氏は今までの利益誘導型政治からの決別、情報公開を進めた上で受益だけではなく、負担も含めた観点から国民と政策論議を進める意欲を示した。与党の中堅、若手政治家の生の声を聞き、政治の現状についての理解を深めるという点で、いろいろな面で収穫の多いシンポジウムだったと思う。

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Essay

私のユートピア(1)

川島 真(北海道大学助教授)

 この半年北京に滞在している。「私のユートピア」という課題は、筆者にとってはやや絶望的な問いであった。何故なら北京での生活は、強烈なスモッグの中で喉の痰と闘い、「油条」を喰らい白酒を啜る「生活」と、「日中友好」という絵に描いた餅のための膨大な業務という「現実」しかないからである。だが、いまの中国にユートピアはあるのか、とあらためて周囲を見まわすと、実は彼地にもそれが無いのではないかと感じる。
 ユートピアは「理想郷」と訳されるが、中国からこれを捉えると三つの像に結実するように思う。第1は『西遊記』に見える桃源郷的快楽の世界。第2は陶淵明的な無為自然、隠遁者の世界。第3は解決不能に思える現世の諸問題が解決されている世界。いずれもが「非」現実的である。中国近現代史を振返ると、少なくとも第3のユートピアは、現実に思い悩み、突破できない人々を慰め、ある動力を歴史に与えてきた。時代が動く時、それは同時代人の現状に対する「時代観」が重なり始め、重なりをもつ「ユートピア」を構想し、そこに起爆剤が加わったときだろう。太平天国然り、文化「大」革命然り、である。
 しかし、ここ暫く東アジアはユートピア砂漠である。江沢民は毛沢東や鄧小平と違ってユートピアを描くタイプの政治家ではない。江の焦りは先人に対して、あるいはむしろ自由に構想力を発揮する李登輝など台湾の指導者に向けられる。情勢不安定で、かつ現実主義が横行する中国でユートピアを語ることは難しい。だが、敢えて言うならば、いまの中国にとってのユートピアは、「全球化」(グローバリゼーション)でも、IT革命でもなく、恐らくは負の遺産の多い「近代」の「算帳」(清算)と、「近世」への回帰を含んだ新たな時代の構築だろう。そこでは、世界の一つの巨大「文明」としての中国像がある。
 私のユートピア。それは、このような「富国」をめざす中国を含む東アジア諸国・地域間において、少なくとも友好ではない対等な「対話」が成立することである。中国語でコミュニケーションは「溝通」と書く。より広い地域で重なりのあるユートピアを描けてはじめて「汎」地域が構想できると筆者は考えている。

中国湖北省赤壁にて

 

Art&Culture

【観る/CINEMA】

映画『アメリカンビューティー』
監督:サム・メンデス
脚本:アラン・ボール
主演: ケビン・スペイシー
 アメリカ映画 1999年

 大衆消費社会において解体した社会的・家族的紐帯が(を)生んだのは、規範や価値の無化・消滅ではなく、その個別的過剰化であり自閉的妄想化であった。中年男が再生を試みる若き日々の逸脱、その妻のキャリア=クラスへの執着、思春期の少女達の苛立ちや性的放縦物語、男達のホモセクシュアリティ顕示や抑圧、犯罪性・精神障害と混同されがちな少年の実存感覚、これらのことごとくが夢想と紙一重であるが故に自縛的であり、真摯であるが故に救いようもなく陳腐である。そしてお互いに全く噛み合わない。すべての会話が独白に聞こえる。主人公が結末を迎えたとき、彼はどんな甘い夢を自らに見せていたのか?自慰(この映画のシンボルの1つでもある)と化した<自己内対話>のめくるめく快楽は、最後まで本人にしか分からない。

尾崎一郎

【読む/BOOK】

『ストラクチャードファイナンス入門』 大垣尚司 著
日本経済新聞社 1997年

 北大法研の民事法部門では、金融法研究が一寸したブームだ。今や、金融のあり方の変動期を迎えつつあり、銀行を介在させた間接金融から直接金融への大きなうねりの中にある。
 これにより、伝統的な民法学〔債権総論・担保物権〕が念頭においていた金融実務も変貌しつつあり、今後は、債権の証券化や資本市場の実態を知らないと話にならないとも言えよう。そんな時に本書は恰好の必読文献だ。
 著者は、興銀、生保の金融市場の第一線で働くスペシャリストで、内容も、表題から受けるハウツー的イメージと違って、骨のある充実したもので、実務家ならではの示唆深い分析も随所にあり、情報も豊かである。ここで喋々するよりも、まずは一読をお薦めしたい。

吉田邦彦

 

Schedule&Information

市民に向けて開催するシンポジウムの予定 Oct-Nov.2000

21世紀の政策アジェンダ・・・グローバリズムへの対抗戦略 (2000年11月11日開催予定)
 次々と外国資本に買収される大企業や市場開放で深まる国内農業の危機など、経済グローバリズムはいま、競争の激化と経営や雇用の不安定をもたらしている。グローバリズムとナショナリズムに挟撃される21世紀日本のヴィジョン・戦略を問い、論客による徹底討論を行う。

パネリスト ● 金子勝 ・ 高橋哲哉
コーディネーター●山口二郎

 

Academia Juris 活動報告

●7月17日 プロジェクト・セミナー「総選挙をめぐるアカデミズムとジャーナリズムの対話」を開催。報告者 新蔵博雅(北海道新聞政治部長、当センター研究員)、鶴井亨(同副部長)、中村研一教授、山口センター長。6月総選挙に関して多面的で刺激的な討論が行われた。今後、時事的テーマに即して同種のセミナーを開催する予定である。

●7月24日 札幌市との共催により「オンブズマン・シンポジウム」を開催。参加者、神原勝教授・亘理格教授・山口センター長。現在オンブズマン条例の制定を進めている札幌市の依頼により、当センターも条例案の検討に協力することとなった。このシンポジウムを皮切りに、8月以降3回の市民セミナーを開催して、市民参加による条例制定のナビゲーター役を務めた。

●10月28日 市民セミナー「循環型社会形成と法システム」を開催。廃棄物処理の行方など、来るべき21世紀の循環型社会形成について、コーディネーターの井口博(弁護士)とパネリストの大塚直(学習院大学教授、当センター研究員)・北村喜宣(横浜国立大学助教授)・福士明(札幌大学教授)・畠山武道教授が多角的な分析・論議を行った。

 

質問に答えて

嬉しいことに、毎回公開シンポジウム参加者から多数の質問・意見をいただいています。その中で、「異なる意見による討論も必要ではないか」という指摘がありました。確かに、当センターの企画は特定の見解の宣伝を図るものではありません。日本の今を考える上で最も面白い論客を意見や立場に関係なく招聘し、熱い議論ができるよう努力したいと思っています。自民党の現状を論じた10月シンポジウムはその手始めでした。

 

Staff Room●Cafe Politique

M a s t e r ● 某日 僕の本を読んで興味を持ったというお茶の家元に招かれて、鎌倉郊外のお茶室を訪ねる。鬱蒼とした杉木立を借景にした庭で、お茶を飲み、幽玄という言葉を初めて実感した。影響されやすいマスターは当カフェでも抹茶を出そうと考えた。某日 日頃こき使っていたせいか、ギャルソンが急病で入院する羽目に。シンポジウムは近づくし、人手はないしとパニックに。ゲストの有名代議士の事務所に自分で電話して、マスコミ対応だのスケジュールだのの段取りを整えようとするが、慣れないものだから、よけい焦る。いなくなって分かる秘書の有り難さよ。何とか本番に間に合うように戻ってきてくれて、ただ感謝。

常連/ブタ監@昔 ● 暫し立ち寄ったセンターでホームページの立ち上げを見届け、ギャルソンさんにケーキとお茶を出して頂きました。実は自分もセンター所属なのに、もてなし頂き恐縮しました。(と言いつつ、また頂く機会を期待しています。マスターのメロンも可)

常連/録音係 ● 去る10月13日(金)田中真紀子、中谷元衆院議員を招いてシンポが行われた。受付係は見に来た方々に都合(?)2回怒られた。開場1時間前、「早く開けろ!だから日本の政治は…」、開場当初予定時刻、「なんで予定時刻の前に開いているんだよ!」。シンポは大盛況。政治はエゴのぶつかり合い、そんなことまで勉強になったと儲けたような気分になった。

G a r c o n ● 「一体どこで知り合われたんですか」マスターと私はよほど奇妙なコンビに見えるのかよく訊かれる。あれは10年前。TV局の報道部で駆け出しニュース・リポーターであった私はある日番組の打ち上げで、やたらと話の面白いおじ・・・いや、お兄さんの隣に。「これはイケル!掴まえておかなくちゃ」と以後何度かインタビューさせていただいた。それが若き日のマスターなのだ。が、今思うと掴まったのは当方であるらしい。とほほ。あ゛、ついにオヤジなギャグまで感染か?皆さんHELP!!

 

Hokkaido University ●The Advanced Institute for Law and Politics

J-mail●第2号
発行日●2000年10月30日
発行●法学研究科附属高等法政教育研究センター[略称:高等研]

〒060・0809 ●北海道札幌市北区北9条西7丁目
Phone/Fax●011・706・4005
E-mail●academia@juris.hokudai.ac.jp
HP●https://www.juris.hokudai.ac.jp/~academia/

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公開シンポジウムのお問い合わせは Phone●011・706・3119まで

【Academia Juris】