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附属高等法政教育研究センター

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 刊行物・活動報告詳細

J-mail No.23 2007 Winter

CONTENTS・・・・・・・・・・・・Winter,2007
●J-Review:須網隆夫
●Research Update:真壁仁/横溝大
●Juris Report
●Art&Culture:藤谷武史/水野浩二
●From Abroad:堀口健夫
●Information

 

J-Review

いまを、斬る●
自由競争と市場の制度設計

TEXT:須網 隆夫●早稲田大学大学院法務研究科教授
     TAKAO SUAMI

1

 最近、短期間在籍しているデューク大学ロー・スクールで、コロンビア大学のスティグリッツ教授の知的財産権に関する講演を聴く機会を得た。教授の講演を直接聞くのは始めてであったが、知的財産は公共財であり、通常の財産権と同様に知的財産権を扱うことは必然的に非効率を将来し技術革新を阻害するという主張を、軽妙な語り口で聴衆に納得させるものであった。知的財産権は法制度によって初めて作り出された権利であり、その実効性も法制度に全面的に依存している。財産権であれば保護は当然と考えられがちであるが、知識社会の発展に不可欠な知的財産についてはそのようにシンプルには考えられないとの趣旨であった。
 教授の議論の当否はさておき、ことは知的財産権だけに該当するとは限らないのではないかと思う。何が公共財であるかは時代とともに変化し、単純には確定できない。例えば、以前と異なり、地球環境が知的財産以上の公共財であることは暖冬の日本を過ごした人々には異論ないであろう。むしろ、あらゆる権利対象物には公共財としての側面があり、それらの権利をやり取りすることによって成り立つ市場には、必然的に一定の制約が課されざるを得ないとの議論すらありうるかもしれない。
 そもそも現代社会に自由競争が存在するという言説は幻想であり、実際に存在するのは法制度によって規制された制限された競争のみである。もちろん、市場における競争の歪曲は競争法によって禁止される。しかし問題は、どのような目的実現のためにその目的に適するように市場を設計するかにあるのではないか。そして市場の目的には、見えざる手に任せることによって達成される経済効率性以外の要素が含まれるのであり、公共財の扱い方もその一つである。人為的存在である今日の市場は、無意識のうちに価値的選択を前提とせざるを得ないのである。 
 このような市場が如何にデリケートなバランスの上に成立するかは、日本の法学者は、法科大学院制度の現状を通じて、身につまされたはずである。新司法試験合格者数という制約のために、より良い法曹の養成を目指して行われるはずであった法科大学院間の競争は、新司法試験合格率をめぐる競争に代替されて歪曲され、本来の目的達成は困難になりつつあるからである。しかし市場を止揚しようとした社会主義が失敗した以上、近い将来、市場から逃れる術はない。市場をどのように設計し、コントロールするか、それが独占禁止法に止まらない、経済法・競争法の今世紀における課題であることは間違いないだろう。

 

Research Update

「自明性」への問い
─徳川政治思想史研究の課題

眞壁 仁●北大法学研究科助教授 政治思想史

 「鎖国」時代の日本の思想は、同時代の東アジアの思潮とは無関係に自生的発展を遂げた。従来の思想史研究が前提としたこのような認識は、歴史学研究で進んだ「鎖国」概念の見直しや対外交流の実態解明により、もはや自明ではなくなっている。また、当時日本とみなされた地域に存在した社会思想全般を素材にして「国民思想史」を再構成する試みも、無前提には行えず、その自覚的な意義説明が求められる。まして既刊の洋装活字本の再解釈だけでは、近代の国民国家形成期の思想評価から抜け落ちる多くの対象を扱えない。このような「一国史」観の克服や「国民思想史」観の相対化という歴史学からの問いを、「旧体制」の思想史研究としてきちんと受けとめたい。 しかし同時に、思想史研究として、狭義の歴史学研究へも問いを投げかけたいと考える。近著『徳川後期の学問と政治─昌平坂学問所儒者と幕末外交変容』では、幕府儒者を取り上げることによって、既存の歴史学で前提とされている「近世後期」「幕末期」という時期区分や「対東アジア外交」「対西洋外交」の区分けの問い直しを試みた。「近代」の「国民道徳」と重ね合わされた「体制教学」イメージとは異なる、政治思想としての徳川儒学の一端が、少しは明らかになったであろうか。過渡期の前近代思想という「当然の帰結」をかざしては、経験的事象の深部に迫る思想解釈はできない。なおもそのことを痛感している。

 

あるべき国際私法の姿を求めて

横溝 大●北大法学研究科助教授 国際私法

3

 人々の国際的活動の一層の活発化やインターネット等の近時の技術革新は、法的問題と土地との密接関連性を基準として準拠法を決定する従来の準拠法選択の方法がうまく機能しない状況を増加させています。このような現実の変化に少しでも対応するため、本年1月1日より国際私法は「法例」から「法の適用に関する通則法」に名称を変更すると共に、とりわけ契約及び不法行為に関する準拠法選択規則を大幅に変更しました。そこでは、当事者自治や弱者保護といった、これまで準拠法選択においてあまり評価されて来なかった観点が積極的に採り入れられています。また、今回の改正では見送られましたが、国際社会において国家以外のアクターの活動が活発化している今日、Lex Mercatoria等所謂非国家法の適用可能性という問題も議論され始めています。

 このように国際私法の方法自体が根本的に見直されつつある状況を踏まえ、解釈論だけではなく「21世紀にあるべき国際私法の姿」を求めてより原理的な研究も進めて行ければと思っています。

 

Juris Report

学術創成プロジェクト・公開講演会
「私たちが政治家を“好き”と思うとき」

2006年10月20日(金)

スピーカー:香山リカ●精神科医・帝塚山学院大学人間文化学部 人間学科教授
コーディネータ:山口二郎●北海道大学公共政策大学院教授

 2006年10月20日、精神分析医で帝塚山学院大学教授の香山リカ氏を招いて講演会を開催した。多方面に著作の多い香山氏だが、今回は5年間の小泉政治を精神分析の手法で読み解くという話をお願いした。というのも、政治学者がいくら考えても、小泉人気は説明できないと思われたからである。
 香山氏は、まず現代日本人の抱える精神的悩みが変質し、病のあり方自体が未熟化していることを指摘する。成熟していない主体が悩みを抱えたとき、強いもの、優れたものと擬似的ではあっても、1対1でつながるという感覚を得ることで、安定を得ようとする。小泉首相は、メールマガジンなどのメディアを巧みに使い、演説などのパフォーマンスを通して、そのような擬似的な1対1のつながりという幻想を作り出した。そうした幻想を持った人は、他の誰よりも自分こそが小泉の闘いを応援しようという気分になる。特に、2005年の解散総選挙のときの世論の雪崩はそのようにして説明できる。
 日頃、論理や政策の評価によって市民の政治行動を説明する者にとっては、斬新な視点であり、大いに教えられた。会場には200人以上の市民や学生が詰めかけ、熱心な質疑も行われた。

4

センター・シンポジウム
「先住民族の権利の現在―その法と政治の新たな展開―」

2006年12月16日(土)

スピーカー:横田耕一●九州大学名誉教授・流通経済大学法学部教授
      坂元茂樹●神戸大学大学院法学研究科教授
      相内俊一●小樽商科大学大学院商学研究科教授
      阿部ユポ●北海道ウタリ協会副理事長
      高木喜久恵●北海道ウタリ協会理事 
      常本照樹●北海道大学大学院法学研究科教授
コーディネータ:長谷川晃●高等法政教育研究センター長

 本シンポジウムは、ここ10数年余りの間に世界的に拡充の動きが広がっている先住民族の権利について、日本でも特にアイヌの人々の権利の認知とその適正な実現が焦眉の課題になっている現況に鑑み、いっそうの社会的認知や制度整備を考えるために催された。 シンポジウムでは憲法、国際人権法、政治学の観点からの分析と共にアイヌの人々の声を直接に聞くことができたが、世界の多くの国々で先住民族の権利実現のための制度整備が促進される中、私たちは先住民族の権利を日本社会や北海道の地域にどのように根づかせながら民族差別のない社会へと向かってゆけるのか、今やより具体的な目に見える法的・政治的な改善策が求められていることが指摘され、その積極的な方向性が論議された。

5

センター・シンポジウム
「今、<自由からの逃走>を問うのはなぜか ―北海道新聞特集記事を契機に―」

2007年1月17日(水)

スピーカー:池野敦志●北海道新聞文化部次長
      山口二郎●北海道大学公共政策大学院教授
コーディネータ:長谷川晃●高等法政教育研究センター長

 本シンポジウムでは、2006年夏に出された北海道新聞特集記事「自由からの逃走 2006」を素材として、現代日本社会における自由の有り様とそれに迫るマスコミの取り組み方をめぐって議論を行った。ゲストには、この特集記事を企画した北海道新聞文化部デスクである池野敦志氏を招き、この企画の経緯やねらい、編集過程、そして反響などを改めて省みていただくと共に、日本社会を覆っている政治変容について批判的分析を加えておられる北大公共政策大学院の山口二郎教授にも加わっていただいて、現代日本における自由の問題の諸相やマスメディアの役割などについて、参加者と共に考えた。
 議論の焦点となったのは、エーリッヒ・不ロムがかつてナチズムの台頭に関して指摘したのと同様の、現代日本における自由の喪失の状況、特に社会における他者の自由への配慮の減退、付和雷同的な心性の拡大、そしてそれらの変化がもたらす社会変容の方向などであった。フロアーからの質疑も含めて現代日本の社会で起こっている変化について、率直かつ実のある討論がなされた。

 

6

センター・ワークショップ
「<性と生殖>の管理とジェンダー ―ナチス優生法制の歴史的位相―」

2007年1月27日(土)

スピーカー:三成美保●摂南大学法学部教授
司会:長谷川晃●高等法政教育研究センター長

 高等法政教育研究センターでは、ここ数年、ジェンダー法理論に関係する企画を継続して行って来ているが、本年度は、ジェンダーの見地からする法の歴史学としての<ジェンダー法史学>を提唱して、この領域で活発な研究活動を行っておられる摂南大学の三成美保教授にゲストとしてお越しいただいた。
1月26日(金)に行われたセンターの学生向け講演会(演題「ジェンダー法史学の意義と可能性」)に引き続いて行われた本ワークショップでは、<ジェンダー法史学>の視座から、ナチス期ドイツの優生法制が抱えたジェンダー問題をめぐって議論をしていただいた。そこでは単にユダヤ人や女性のみならず、多様な性の形態が様々に抑圧的な扱いを受ける様が史料を通じて明らかにされ、ジェンダー差別の問題が近現代の国家体制の根源に存在していることが実証的に明らかにされた。また、討論では、ジェンダー法史学の視座の理論的意義、ナチス・ドイツのジェンダー管理の特徴、戦後ドイツへの影響などの問題が多角的に議論された。

7

 

Art&Culture

“Sunday At The Village Vanguard”
Bill Evans Trio  Riverside, 1961

 ビル=エヴァンスが、スコット=ラファロ(b.)、ポール=モティアン(dr.)を迎えたピアノ・トリオで世に送り出したのは、わずか四枚のアルバムである。そして、四枚全てがジャズの歴史に残る傑作となった。通常はリズムのみを担当するベースが即興的にピアノの対位旋律を弾き、ドラムも加えた三者が緊張感あふれるインター・プレイを実現するそのスタイルは、ピアノ・トリオの概念を変えるものであった。トリオの代表作といえば名盤『ワルツ・フォー・デビー』であるが、ラファロという若きベーシストの才能が最高の形で結晶化された作品であるこの一枚をあえて推したい。
 ラファロの「春のようにみずみずしく、森のように深い」(?村上春樹)ベース・プレイは、それ$を受けてさらに冴えわたるエヴァンスのインプロビゼーションによって一層輝きを増す。この作品に関しては(贔屓目を承知の上で)ベースが主役なのではないかと思ってしまうほどに。しかし、ラファロはこの録音の11日後、25歳の若さで交通事故死してしまう。我々が「五枚目」を聴く機会は永遠に失われたわけだが、天才の早すぎる死を惜しむべきか、傑作を遺せた表現者の幸運をこそ讃えるべきか。私はいまだに決めかねている。

北大法学研究科助教授  藤谷武史

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宮脇俊三『時刻表2万キロ』
(河出書房新社、1978年)

 中公新書や『日本の歴史』の企画で名編集者として知られた筆者の、全国2万キロを超える国鉄全線完乗にいたる旅の記録。汽車旅を通して各地の風土・文化、そしてそこに生きる人々を抑えた筆致で描き、一般人の読書に堪える「鉄道紀行文」という新ジャンルを開いた作品(日本ノンフィクション賞受賞)。
 本書で描かれたのは大半がローカル線だが、高度成長期後の地方にはまだまだ独自の生活文化、そして活気ある暮らしがあったということが知られる。小学4年で本書を手にした私はそれらの路線の大半をその後訪れることとなったが、ローカル線はもとより地方の地域社会の衰退に―特に最近は―胸が痛んでしまう。公共交通機関の維持うんぬん以前に、そもそも地方では地域社会自体が消滅しつつあるのでは……と感じられることもある。高橋知事の「北海道版コンパクトシティ論」(自治体を20程度に集約?)が出てくるのも時の流れなのか。発表から30年近くが過ぎたいま、本書は失われた「昭和の地域社会」の記録として読み直される時期なのかもしれない。

北大法学研究科助教授  水野浩二

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From Abroad

堀口健夫(北大法学研究科助教授 国際法)
 
 私は昨年の10月より、ケンブリッジ大学ローターパクト国際法研究センターに客員研究員として滞在している。早いもので半年の滞在期間も残りわずかである。同センターの沿革等については前号の小森教授による紹介を参照していただくとして、ここでは客員研究員が日々どのような研究生活を送っているか、簡単にご報告させていただきたいと思う。
 同センターには10名前後の客員研究員が滞在しており、それぞれ個室、或いはシェアされたオフィスを割り当てられる。各オフィスには、PC・電話・本棚等が備え付けられており、24時間好きな時に利用することが可能である。またセンターの中には、国際法の基本文献や雑誌等を収めた図書室もあり、自由に持ち出してオフィスで参照することができる。このように、研究に集中するには申し分のない環境が整っており、毎日をこのオフィスで過ごすというのが基本的な日課である。
 しかしそれ以上に有難いのは、他の研究員やセンターのスタッフとの交流を図る機会が様々用意されていることである。例えば毎朝午前11時にはコーヒーブレイクの時間があり、一同仕事の手を休めてキッチンに集合する。そこではお互いの研究について真剣に語り合うこともあれば、フットボールの話題で延々と盛り上がることもある。
 また、週1回の頻度で客員研究員によるインフォーマルな会合も開催されている。研究員はそこで30分前後の報告の機会を与えられ、他のメンバーから有益なコメントや示唆を得ることができる。この会合はあくまで客員研究員が自主的に運営しており、要求される報告の完成度や日程等についても極めて柔軟な対処がなされている。会議も非常にリラックスした雰囲気で進められ、時にはワインを片手に議論を戦わせることもある。これほど使い勝手の良い研究会もなかなかないだろう。それに加えて、センターのスタッフが報告者として招待されることもあり、自身の研究テーマのみならず、センターの運営や講義に関する苦労話などを聞かせてくれたりもする。
 さらに、毎週金曜日に開催されるランチタイム・レクチャーでは、外部から講師が招かれるほか大勢の研究者や学生もセンターを訪れる。当日は昼食のサンドイッチが一室に用意され、講義の前のひと時はちょっとした交流の機会となるのである。ところでこのレクチャーの中身についてであるが、研究の背景や問題領域の特性等が丁寧に説明される一方で、肝心の本論については、時間の制約もありどうも消化不良で終わることが少なくない。しかしひょっとするとこのことも、直接講師と交流を図る動機を与えてやろうというセンターの親心なのではないだろうか。そう思えるほどに、自分がケンブリッジのコミュニティの一員であると日々実感できる環境を、このセンターは提供してくれていると思う。

10

 

Information

  • 1月27日(土)に、学術創成プロジェクトの企画に共催をして、「道州制とアイヌ民族」を開催しました。4月からは北大にアイヌ・先住民研究センターが開設されますが、高等研センターも連携を図ってゆきます。
  • 3月26日(月)に、北大法学研究科法学会と共催で、「アジアにおける思想と法の連鎖をめぐって」と題するシンポジウムを開催します。詳細はセンターHPでご覧ください。

 

Staff Room●Cafe Politique

M a s t e r● 昨夏からオフィスを仮移転していたセンターも元の部屋へと戻る時期を迎えた。あっと言う間であったが、それだけ冬学期は例によって忙しかったということか。春までしばし余裕ができることは嬉しい。

G a r s o n● このj-mailを作るのに、6年ぶりに一太郎を使いました。見覚えのある画面に懐かしくなり、何でも分かっているつもりでキーボードを叩いたら、Wordとは違う変換方法にドギマギ…月日の経過を感じました。

 

Hokkaido University ●The Advanced Institute for Law and Politics

J-mail●第23号
発行日●2007年3月26日
発行●法学研究科附属高等法政教育研究センター[略称:高等研]

〒060・0809 ●北海道札幌市北区北9条西7丁目
Phone/Fax●011・706・4005
E-mail●jcenter@juris.hokudai.ac.jp
HP●https://www.juris.hokudai.ac.jp/~academia/

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【J-Center】