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附属高等法政教育研究センター

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 刊行物・活動報告詳細

J-mail No.37 2012 Winter

CONTENTS・・・・・・・・・・・・Winter,2012
●J-Review:後藤千恵
●Project Report
●Research Update:三宅 新/栗原伸輔
●J-Culture:嶋 拓哉/空井 護
●Center Network:管 剛文
●Information

 

J-Review

「TPP時代」に若者の雇用はどうなる?

 グローバルな市場経済が地域の雇用を一変させ、とくに若者が自らのキャリアを見通すことが難しくなっている。
 「TPP時代」とも呼ぶべき流れのなかで、どのような雇用ビジョンが可能なのか。
 NHK解説委員で若者雇用の問題についてもレポートや提言を重ねてきた後藤千恵氏に聞いた。
 
宮本: 後藤さんは、NHKの解説委員としては労働市場や雇用の問題を担当されていて、若者の雇用についても丹念に取材されています。大学人は誰もが無関心ではいられないテーマですが、今何が起きているのでしょう。

後藤: グローバルな構造変化と地域社会の変貌が直接つながっていることを実感します。
2000年代の初めにグローバル企業の国内回帰がおき、最先端のハイテク工場の地方への誘致がさかんに行われました。でも、もともとセーフティネットが弱いところに非正規化と規制緩和がすすみ、地域の若者たちがそこで自らの能力を伸ばし、家族や地域社会を支えていく条件はほとんどできませんでした。政府がグローバル化の負の側面を是正するという本来の役割を果たしていない印象です。

宮本: グローバル化のなかで地域社会を元気にしていくのはむずかしそうですね。

後藤: ただし、地域社会にはそれ自体のニーズに基づく仕事がたくさんあります。介護、子育て、エネルギーや食料の循環、高齢者にやさしいインフラづくり、老巧化した橋の維持管理…。そこからきらびやかな繁栄を引き出すのはむずかしいかもしれませんが、折も折、日本社会の成熟のなかで、幸福というもののとらえ方に変化も見られます。戦前、自然とともに生きてきた人々の知恵や価値観を現代(いま)に生かす90歳ヒアリングという研究も始まっています。ゆったり構えて幸福をつむぎだす地域づくりは十分可能だと考えます。

宮本: そのような地域社会の危機と可能性をにらんで、若者の雇用にはどのような選択肢があるのでしょう。

後藤: 変化の時代は価値観が多様化する時代、一つの「正解」はなく、たくさんの選択肢が生まれる時代です。たとえば、地域のつながりを補完したり、行政の手の届かない様々な課題を解決したりする新しいビジネス、小さくても輝く会社が地域に広がり始め、仲間と一緒に起業する人も増えています。奪い合うのではなく分かち合う「月3万円ビジネス」(10個手がければ月収30万円です)、農ある暮らしをベースに自分が本当にやりたい仕事を楽しむ「半農半X」など、多様な働き方が注目を集め始めています。

宮本: 就職で悩んでいる大学生にとってそのような選択肢を選ぶのは、ノウハウという点でも周囲の期待という点でもなかなかむずかしいかもしれませんね。

後藤: 就職を一つの出発点と考える発想も必要です。人間関係を育て、社会についての知識を深め、自分の人生と幸福を考えながら働く。そもそも新たな時代の「一流企業」ってなんでしょう? 規模の大小、どれだけモノを売ったかより、どれだけ人々を幸せにできるか、働く人が満足を得られるかで評価される時代になってくると思います。時代の変わり目にいること、それをチャンスととらえ、まずは従来の延長線上の発想から抜け出す、それが可能性を大きく開くことになると思います。

01 後藤千恵
NHK解説委員。(社会保障、労働問題、地方自治を担当)1988年NHK入局。福岡放送局を経て、1993年報道局社会部へ。社会部記者として、介護や雇用、地方自治に関わる問題などを幅広く取材している。

 

Project Report

高等研センター主催 講演会
安心社会をどうつくるか? 少子化時代の社会保障改革

2011年7月23日(土)

講演:村木 厚子●内閣府政策統括官
討論:宮本 太郎●高等研センター長 
主催:北大法学研究科附属高等法政教育研究センター 
共催:文部科学省科学研究費基盤研究(A)
   「日本型福祉・雇用レジームの転換をめぐる集団政治分析」
   北海道大学公共政策大学院 福祉労働問題事例研究(西山 裕教授)

 

 子ども子育て支援は社会保障改革のなかで中心的な課題として位置づけられている。

 消費税の使途はこれまでの「高齢者3経費」に子ども子育て支援を加えて「社会保障4経費」となる。このシンポジウムでは、その子ども子育て支援政策をまとめる中心となってきた村木厚子内閣府政策統括官(共生社会政策担当)が、まず今日の日本における子ども子育て支援政策の課題と展望について講演をした。村木氏は、一体改革のなかで、三歳未満児の保育所利用率を4人に1人から3人に1人としていくなど、一体改革ではこの分野の前進が大きいことを指摘した。その後、村木氏とセンター長との対談をおこない、併せて会場からの数多くの質問に答えていただいた。とくに地域格差や利用者の負担増などの問題に不安も表明されたが、村木氏からは懇切な説明があった。村木氏はえん罪事件の被害者という経験をした当事者でもあるが、それは社会保障などの施設において入所者が感じる心理などについて改めて考える契機となったと語った。

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国際ワークショップ
現代イギリス政治の諸相―政策コミュニティ概念の再評価―

2011年9月15日(木)

報告者:Prof.Grant Jordan●英・アバディーン大学 名誉教授
    Dr.Paul Cairney●英・アバディーン大学 上級講師
コーディネーター:宮本 太郎●高等研センター長
主催:日本学術振興会科学研究費基盤研究(A)
   「日本型福祉・雇用レジームの転換をめぐる集団政治分析」
   GCOEプログラム「多元分散型統御を目指す新世代法政策学」
共催:北海道大学大学院法学研究科附属高等法政教育研究センター
   北海道大学大学院公共政策学連携研究部附属公共政策学研究センター

2009年の政権交代で政治主導が叫ばれ、日本の議会政治を官僚主導の「官僚内閣制」から政党のリーダーシップが貫徹した「議院内閣制」へ転換していく意義が説かれた。この後者のモデルとされてきたのは、イギリスのいわゆるウェストミンスターモデルであった。しかし、こうした位置づけに試みられた政治主導は少なくとも現状では挫折している。このセミナーでジョーダン教授は、ウェストミンスターモデルを合意形成重視の仕組みと対立させて捉える考え方に異議を唱えた。少なくともイギリスに関する限り、議会の内外での政策コミュニティにおいて調整と合意形成が追求されてきた。続いてキアーニ上級講師は、スコットランドの政策過程を論じ、ここでは連合王国以上に利益集団が政策領域ごとに参加するかたちが発展し、こうした傾向は新しい政策領域でむしろ強まっているとした。既存の形式的類型論を超えた、日本の現状分析にも有用な問題提起を受け、中核的執政論などが強調する政治の集権化傾向との関係をどう整理するべきかなど、活発な討論がおこなわれた。

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高等研センター主催 研究会
「国土の復興・創生と公共事業」

2011年11月18日(金)

報告者:小磯 修二●釧路公立大学学長
コーディネーター:宮本 太郎●高等研センター長
主催:北海道大学大学院法学研究科附属高等法政教育研究センター
共催:日本学術振興会科学研究費基盤研究(A)
   「日本型福祉・雇用レジームの転換をめぐる集団政治分析」

「コンクリートから人へ」というスローガンのもとで自民党政権時代から引き続いて公共事業の削減が続いている。他方で、東日本大震災は安全な地域づくりのための公共事業の役割を改めて浮き彫りにした。このセミナーでは、行政官としてまた地域政策の研究者として、建設業界や公共事業を見つめ続けてきた釧路公立大学学長の小磯修二教授をお招きして、公共事業のこれまでとこれからを論じていただいた。小磯教授は、国土計画の発展との関係で戦後の公共事業政策を振り返り、子ども手当などと比べて地方への再分配効果が明らかに高い公共事業が規模として急激に減少し、さらにはその経済効果という点でも地方の公共事業がその生産誘発効果という点で大都市の企業の収益を底上げしている実態を明らかにした。その上で、総合評価型の入札において地域経済の貢献度を評価するなどの新しい手法が開発されていること、東日本大震災が問いかけた問題として「非常時の論理」から公共事業の役割を考える必要を指摘した。

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Research Update

「やはり第一印象が大事なんですかね」

三宅 新●商法 准教授

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平成17年に会社法が成立したのに合わせて有限会社を新たに設立できなくなった。有限会社は、機関構成もかなり自由で、持分の譲渡も前提とされておらず、個人や少人数で会社を経営していくのに非常に適していた。そのため、会社の圧倒的多数が中小企業であるわが国は、有限会社だらけになっているはずだった。しかし、有限会社は想定ほどは普及しなかった。多くの会社設立者が、「有限会社」よりも「株式会社」の方がイメージが良いと思ったためか、多くの制約がある株式会社をわざわざ選んだのであった。そして、そのような実務側からの要望もあって、有限会社に向いている会社が株式会社を選択しても不都合がないように、何度も法改正がされてきた。その帰結が会社法制定であり、有限会社の廃止である。今の株式会社では、有限会社のように、定款の内容や機関構成が相当自由に認められる。では、それはどこまで認めてよいのか。今はこのような研究に精進している。

 

「会社再建手続からみた倒産処理」

栗原 伸輔●民事手続法 准教授

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昨年4月に北海道大学での新生活をスタートし、新たな環境の中で多くの刺激を受けつつ、法学研究の第一歩として選んだ民事手続法の果て(倒産法)の果て(会社更生法)での研究を何とか形にしようともがいているのが現在の状況です。研究の直接の対象は、会社再建方針を定める更生計画案の認可要件である公正衡平要件の意義を再検討することですが、それを通じて、倒産処理制度全体を見通す一つの視座を得ることができればと思っています。また、アメリカ法を源流とする会社更生法の研究の中で接した、鉄道会社の破綻という大きな社会問題の解決に迫られた関係者の創意工夫の成果であるアメリカにおける会社再建手続の成立過程や、第2次大戦直後に当時全くの異質物であったアメリカ法を受容し、その後日本における会社再建手続を発展させてきた先人の努力は、近時の倒産法分野における多くの社会的問題を考えるうえでも重要な示唆を与えるものではないかと感じています。

 

J-Cultuer

「洋画の邦題が懐かしい!」

北大法学研究科教授  嶋 拓哉

 最近とんと、新しい映画を観ていません。B級アクション映画かラブコメディしかない最近の洋画の貧困さに辟易しているのもあるのですが、実を言うと「邦題が付かないから、題目を見ても興味が湧かない」というのが最大の原因なのです。

 一昔前の映画には必ず邦題が付いていました。『史上最大の作戦』『眼下の敵』『勇気ある追跡』等々…。邦題を見ると、それぞれ印象的な映画のワンシーンが脳裏を掠めます。また、「意訳」と言うにはあまりにも原題を無視した邦題も数多くありますが、例えば、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードによるあのニューシネマは、”Butch Cassidy and the Sundance Kid”ではなく、『明日に向かって撃て』がなぜかピタリとはまります。さらに,日本語の妙により、えもいわれぬ情感がこみ上げてくる邦題もあります。月並みですが,『風と共に去りぬ』は完了を示す助動詞「ぬ」を用いることで初めて、スカーレットとレットによるエンディングを表現することに、みごと成功しているように思います。

 でも、いつの頃からか、ぱたりと邦題を見かけなくなりました。英語の原題か、それをカタカナ読みした題目ばかりが目に付きます。人知れず貴重な日本文化がまた一つ消えたようで、寂しく感じるのは私だけでしょうか。

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Galaxy Quest (DreamWorks SKG, 1999年作品[DVD『ギャラクシー★クエスト』パラマウント ホーム エンタテイメント ジャパン、2009年])

北大公共政策大学院教授  空井 護

熱心な映画ファンではないが、お気に入りの筆頭がこれ。『スター・トレック』をトレッキーごとパロディ化したSFコメディだが、偉大なTVシリーズへの熱きオマージュでもある。劇中劇を舞台に描かれる人間模様は『大鹿村騒動記』さながら、『レスラー』や『その男ヴァン・ダム』に似た哀愁が漂い、エイリアン像の斬新さでは『第9地区』に引けを取らない。TVドラマで活躍する実力派を随所に配したキャスティングも見事だが(名を連ねたS・ウィーヴァーはエライ!)、なにより虚構を現実に転換するプロットが秀逸、本作を観ると、『草枕』の「九」冒頭のやりとりでは画工よりも那美さんの、「話のない小説」論争では芥川よりも谷崎の、丹羽文雄と中村光夫の大喧嘩では中村の肩を持ちたくもなる。リピート回数で本作が『イル・ポスティーノ』や『ベルリン・天使の詩』を上回ってしまう私は、精巧なツクリモノ(「作為」の精神!)を珍重するモダニストどまりなのかも知れない。ともあれ、合言葉はこれまた何ともモダンな“Never give up, never surrender”、精神疲労時の潤い補給にこの一本、オススメです。

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Center Network

非営利・協同労働を推進するシンクタンクとして

協同総合研究所 専務理事 管 剛文

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 北海道大学の皆さま、こんにちは。協同総合研究所(略称、協同総研)は「労働者協同組合(ワーカーズコープ)」に関する専門研究機関および非営利・協同労働を推進するシンクタンクとして1991年に設立されました。他の「研究所」とは少し異なり、研究所自体が協同組合形式で運営され、研究者と実践者を中心とした約500名(個人・団体含)の会員が皆で出資し、研究活動に参加、運営しています。

 2012年は国連が定めた「国際協同組合年」にあたりますが、この背景には行き過ぎた新自由主義や市場原理主義が生み出した労働の劣化や格差社会の拡大に対抗し得る連帯経済の担い手の一つとしての協同組合への期待が挙げられるでしょう。

 労働者協同組合は多種ある協同組合の一つとして、先進諸国では既に社会的排除に対抗する事業体として認知され、法的な整備もされております。私たちはこれを「協同労働の協同組合」と定義し、国際協同組合同盟にも加盟し、実践を重ねてきました。全国で1万5千人が働く「労働者」の協同組合として、道内でも高齢者福祉、病院清掃、公共施設管理、若者就労支援等の仕事を展開しています。

 「協同労働の協同組合」は従来の「雇用労働」とは異なる新しい価値観に基づきます。市場経済のなかにおいても「雇う・雇われる」の関係でなく、労働者自身が「出資」「経営」「労働」を三位一体とし、互いに協同・連帯し、地域と人に必要な仕事をおこす協同組合として、雇用の創出や格差・貧困の撲滅、社会的弱者といわれるあらゆる人たちの社会的統合をめざし協同・公益性に重点をおいて活動しています。

では、協同総研はいったいどのような研究活動を行っているのか? 私たちは働くことの価値を問い直し、これらワーカーズコープの実践を軸に、理論と政策の両面から非営利・協同を研究しています。都市部に限らず農山漁村・中山間地の再生に向けた研究活動をも展開し、特に政策づくりでは協同組合にとどまらない各方面の実践と深く結びついた研究活動が特徴です。会員が主体的に研究活動に参加し、活動を通じてネットワークを築き、蓄積された情報をもとに実践を支援することも特徴の一つといえます。

 また、我が国の「協同労働の協同組合法(仮称)」実現に向けた法案づくりや「公的訓練・就労事業制度(仮称)」等の提案、内外の労働者協同組合運動に関する調査研究や各種研究会、シンポジウム等を開催し、その研究成果の共有や情報交流を目的に所報「協同の發見」(約100頁)誌を毎月発行しています。

 2011年3月11日を境に、既存の日本社会が抱えてきた社会問題の深淵が露呈し、大量生産・大量消費を中心に経済成長を追ってきた今までの価値観からのシフトを突き付けられています。協同総研もまた、東日本大震災・被災地での復興と新エネルギー転換に向けた研究活動へとその取組みを広げ、生きた提案となる研究実践活動に取り組む転換期を迎えています。北大の皆さまも、ぜひこの研究活動にご参加ください。

協同総合研究所HP: http://jicr.roukyou.gr.jp/

 

Information

  • 2月18日(土)14時から日本学術会議講堂にてソウル国立大学の曺 興植教授、安 祥薫准教授をお招きし、公開シンポジウム「日韓福祉政治の新しい展開」を開催いたします。司会は大阪大学の河田潤一教授、討論には京都大学の新川敏光教授とセンター長の宮本が加わります。
  • 2月23日(木)14時から本学ファカルティハウス・エンレイソウにて名古屋大学の田村哲樹教授を迎えて、研究会を「デモクラシーとアーキテクチャ」を開催いたします。
  • 3月22日(木)14時から都市センターホテル(東京都千代田区)にてサイモン・ビュルンボウム先生をお招きし、ワークショップ「北欧福祉国家とベーシック・インカム」を企画しています。
    ※こちらの詳細につきましては、今後高等研HPにてご確認ください。

 

Staff Room●Cafe Juridique

M a s t e r● J-mailをお届けします。センター長の任期もそろそろ終わりに近づき、ほっとする反面、いろいろな反省の気持ちも押し寄せてきています。なんとか残りの2ヶ月を充実させたいと思います。実際のところ年度末は国際シンポの企画も重なりかなり忙しくなりそうです。実はJ-mailもあと一号残っているのです・・・。

G a r s o n● 今シーズンの冬は例年に比べ、寒さが厳しいように感じられる。つい外出を控えてしまうため、運動不足に拍車が掛かり、なかなか不健康から抜け出せない。せめて、そんな寒さも吹き飛ばすホットな企画を今後皆様にお届けしていきたい。

 

Hokkaido University ●The Advanced Institute for Law and Politics

J-mail●第37号
発行日●2012年1月31日
発行●法学研究科附属高等法政教育研究センター[略称:高等研]

〒060・0809 ●北海道札幌市北区北9条西7丁目
Phone/Fax●011・706・4005
E-mail●jcenter@juris.hokudai.ac.jp
HP●https://www.juris.hokudai.ac.jp/~academia/

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【J-Center】