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附属高等法政教育研究センター

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 刊行物・活動報告詳細

J-mail No.5 2001 Summer

CONTENTS・・・・・・・・・・・・Summer,2001
●J-Review:金子 勝
●Research Update:松村良之/亘理 格
●Juris Report
●Interview 私のユートピア(4):菅 直人
●Art&Culture【観る/読む】:新堂明子/野村真紀
●Schedule&Information

 

J-Review

いまを、斬る   
 「ガラパゴス諸島の政治」

TEXT:金子 勝●慶應義塾大学経済学部教授
   KANEKO MASARU

 日本の政治は誠に奇妙な構図が展開されている。デフレ期にもかかわらず、ニューライト(新保守主義)路線に立つ「小泉構造改革」に人々が夢中になっているからだ。80年代そのままのレトロな対立図式はいかにも古臭い。しかし、それがとても新しく見えるのは、日本の政治がガラパゴス諸島のように特異な「進化」をとげてきたからだろう。

 転機はIMF=GATT体制が崩れてゆく一九七〇年頃。日本では、田中角栄によって「ケインジアン保守」という世界に稀なる政治スタイルが生み出された。これに対抗するのは、同じ自民党内部に出てきた、憲法改正と市場原理主義によるニューライト(新保守主義)路線であった。主流派が行き詰まると、必ず後者が登場する。中曽根内閣が最初だが、自民党主流派から出ていった鳩山と小沢も後者に属する。そして考えてみれば、「小泉改革」もその焼き直しにすぎない。
 保守政治内部で、いまだに冷戦時代のパターンが繰り返されているところに、この国の救いようのなさがある。

kaneko

 

Research Update

「法意識研究の再構築」

松村良之●法社会学 教授

matumura

 戦後日本の法社会学においては、法意識研究は一貫してその中心的テーマであった。いくつかの研究では、調査方法、分析方法も洗練された手法が用いられ、重要な学問的知見を提供してきたが、なぜそのような法意識があるのかについての理論的な解明はなされてこなかった。私としては、法意識の問題を心理学(社会心理学、発達心理学の双方)の理論的問題関心と結びつけ、この「なぜ」という問を追求していきたいと思う。とりあえずは、センター所属期間に、発達心理学における社会的概念の獲得という理論的枠組みで、所有権概念の獲得についての研究を行おうと思っている。所有権は個人とものとの関係ではなく、ものを媒介とした個人と集団の関係であり、法制度の基底をなすもの だからである。

 

「行政法における公益と裁量」

亘理 格●行政法 教授

watari

 行政の使命は公益実現ですが、わが国では、そのための法的裏付けが十分に備わってはいません。例えば公共事業の場合、わが国の裁判所は公益性に関する自由な行政裁量を余りにも広く認める傾向が強いため、十分な司法審査が行われていません。しかも、周辺住民のような第三者の訴えの利益が否定されるため、多くの場合、まともな司法審査の対象ともならないのが実状です。他方、現在の行政手続法は計画策定手続をカバーしていません。環境影響評価や情報公開等の諸制度が近年整備されてきたとはいえ、住民参加を通して事業計画の公益性を事前・事後にチェックするための手続は不十分です。公益の実現という当たり前の要請を現実化するための新たな理論と法的仕組みを構想することが、現在の私の主たる研究課題です。

 

Juris Report

シンポジウム報告●「分権時代の自治体改革」

2001年7月7日 北海道大学クラーク館大講堂

基調講演講師:北川正恭(三重県知事)
パネリスト:磯田憲一(北海道副知事)
      田岡克介(石狩市長)
コーディネーター:山口センター長

 前半の基調講演では、北川知事が6年間の県政を振り返って、改革の過程と到達点、そして今後の課題について語った。
 北川氏は、ゼロ・ベースで県政を見なおし、新たな価値を創造することを目指して知事の座についた。まず取り組んだことは、県庁内の行政文化の刷新であった。単に法令を遵守する、予算を消化するという行政から、目標・理念を実現する行政へ転換することが、最大のねらいであった。そのために、県職員の意識改革に取り組み、経営における顧客満足という概念を行政に適用して、生活者起点の行政という理念を作り出した。また、職員の意欲を引き出すために、全職員から県政に関する提案を引き出し、様々な改革を実行した。改革は細部から、現場からというのが、三重流改革の哲学である。
 北川県政の最大の成果は情報公開と政策評価である。これによって、県民の県政に対する態度、接し方が大きく変わった。単に陳情、要望をする民主主義から、県民自らで考え、予算の使い方を決めるという民主主義が三重県で始まろうとしている。そうした県民意識の変化は、当然県議会や職員組合にも大きな影響をもたらした。そして、今後の改革課題について、知事・県庁と県民とが緊張感を持って議論しながら取り組みたいという決意を述べた。
 後半のパネルディスカッションでは、磯田副知事、田岡市長がそれぞれ北海道や石狩市における改革の実践について語り、北川知事を交えて改革が成功する条件、住民参加とリーダーシップのあり方について討論した。また、小泉政権が打ち出そうとしている構造改革について、地方の側から問題提起を行った。
 会場には400人近い聴衆が集まり、多くの質問が寄せられ、大変活発で刺激的な場だと好評を得た。

bunkenzidai

シンポジウム報告●「構造改革は日本を救うか?」

2001年7月10日 北海道大学百年記念会館会議室

パネリスト:濱田康行(北海道大学大学院経済学研究科教授)
   金子勇(北海道大学大学院文学研究科教授)
   山口センター長

 政府の経済財政諮問会議が発表したいわゆる構造改革の「骨太方針」をもとに、小泉政権が進めようとしている構造改革について、経済、社会、政治の各方面から批判的な論評を加え、あるべき改革の方向性について会場からの意見も交えて討論を行った。
 濱田教授は、諮問会議の改革論における「市場観」が極めて一面的で、改革の理念が浅薄であることをまず批判した。そして、具体的な改革や政策転換については、インフォームド・コンセントが必要であることを強調した。また、市場原理、競争原理によって経済社会を再編成した場合に起こるであろうコストについて、所得格差の拡大が大衆の消費の減退をもたらし、結局経済の活性化につながらないことを指摘した。
 金子教授は、いままでの高齢社会の研究をもとに、構造改革論議の中で少子高齢社会化という現実が的確に反映されていないことを指摘した。また、自己決定の拡大というスローガンのもとで、女性の生き方や家族のあり方について特定の価値観が押し付けられていることを批判した。
 山口センター長は、小泉政権の政治基盤を分析し、現在の自民党の矛盾が構造改革によって深まることを指摘した。また、構造改革は日本の保守政治のシェイプ・アップを目指すもので、実行しようとすれば大きな軋轢を生み、政治の再編のきっかけになるであろうとの予想を述べた。 
 会場からの質疑の中で、構造改革と大学改革との連関について質問があった。これについて濱田教授から、大学と産業の連携により新規ビジネスを興し、雇用を作り出すとの諮問会議の提言は、きわめて安易なもので、経済失政のツケを大学に回すものという批判があった。
 専門的なテーマで、周知期間が短かったにもかかわらず、百名を越す聴衆が集まり、質問も多く寄せられた。従来文系各学部間の学際的な討論の機会はあまりなかったが、総合大学にふさわしい多面的な議論ができたと考える。

kouzoukaikaku

 

Interview

私のユートピア(4)
「科学技術と人間の幸せ」

KAN NAOTO
菅 直人●民主党幹事長

kan

  子供は全て試験管ベイビーでクローン人間、職業の適性を事前に決められているので生まれつき仕事も決まっている階級社会であり、貧しさもなく、男女関係はフリーセックス。時折、上層階級者が精神的に矛盾を感じて悩むことがあるが、それもある薬を飲めば3日くらい楽しい気分になって忘れてしまう。そこは人間の矛盾を全て解決した社会・・・。ユートピアというと、百年くらい前に書かれたものだったかと思いますが、昔読んだこのハックスレーの小説『素晴らしい新世界』を思い出します。これは「貧困も悩みもないかわり、全てが決められ制御された世界が幸せなのか?」という問いかけ、つまりユートピアの逆説ですね。とても印象的な物語で、今、まさに考えさせられる内容です。
実は私の思想の原点は”科学技術と人間の幸せ”で、これは常に矛盾と緊張を孕んでいることです。科学技術の発展は喜ばしいことではありますが、使いようによってはユートピアと紙一重の危うさがある。しかも、ある特定の人物が自分の考える理想を世界中の人々に押しつけたとしたら? だから、個人にとってのユートピアはあり得るが、万人にとって幸せな”ユートピア社会”はあり得ないと私は考えています。
 私個人のユートピアというか夢は、三次元の空間に浮遊することです。小さい頃の夢は宇宙飛行士かロケットを作ることで、今でも宇宙に飛び出して地球を外から見てみたいですね! 海に潜って海底を俯瞰図で見るのも大好きなので、スキューバダイビングが趣味なんですよ。だから、南の島で美味しいシャンパンでも飲んで昼寝をし、好きな本を読んでは海に潜り、家に帰っても新聞記者が待ち構えていないのが私のユートピアでしょうか(笑)。もっとも、新聞記者が全くいなくなったらそれはそれで、寂しいかもしれませんね!

インタビュー●石田直子

 

Art&Culture

【観る/CINEMA】

映画『KEEPING THE FAITH』
邦題『僕たちのアナ・バナナ』
監督:エドワード・ノートン
脚本:スチュアート・ブランバーグ
主演:ベン・スティラー 
   エドワード・ノートン  
   ジェナ・エルフマン

アメリカ映画 2000年

 ジェイクとブライアンはN.Y.在住、独身、成功者、人気者、そして、幼少からの大親友。彼らは、子供の頃友達だったが、C.A.に引っ越してしまったアナと20年ぶりに再会した。アナは精力的で魅力的なビジネス・ウーマンになっていた。おきまりの三角関係がはじまる。だが、この話には先がある。ジェイクはユダヤ教のラビ(聖職者)で、ブライアンはカトリック教のプリースト(聖職者)だったのだ。ジェイクはユダヤ教徒と結婚するように周囲から催促されているし、ブライアンは生涯独身を通さなければならない。アナはアナで、仕事は順調だが忙しすぎて私生活は不毛。そして、友情と愛情と信仰が天秤にかけられる。
 観光と買物だけではない、人種、民族、宗教、世代が複雑に交錯するN.Y.を垣間見ることができる(現実より、かなり楽観的なラブ・コメディだが・・)。

新堂明子

【読む/BOOK

『 雅 楽-僕の好奇心』 東儀秀樹著
 集英社新書  2000年

「打ち合わせ」「頭取」「やたらに」などの言葉が、雅楽に起源を持つことを知る人は多くはないだろう。また雅楽なるものが、中国、朝鮮半島はおろか、はるかシルクロードを隔てた異郷の国々に淵源を持つ、外来音楽の集大成である、という認識を持つ人も多くはないと思われる。発祥の地では滅びてしまい、もはや日本にしか残存しない雅楽の魅力を、現在フリーの雅楽師として活躍中の著者がわかりやすく紹介してくれる。 中でも興味深いのは、雅楽の持つ音楽性とその背後にある思想や世界観との連関性である。平安貴族に流行した陰陽五行説や、宇宙が「天・地・空」の三要素によって構成されるという古代人の観念が、楽器や曲調にいかに投影されているかという分析はまさに圧巻。平易な文体に深い含蓄の込められた、質の高い入門書である。

野村真紀

gagaku

 

研究所紹介

法形成論ランチォン

 現在の日本や世界が直面している社会変動とそれに連なる新たな法秩序の形成の可能性を考察することは、法学や政治学、さらには他の社会科学にも共通する理論的課題であり、そこでは従来の見方を超えた新しい発想が要求されている。<法形成論ランチォン>は、この新たな法形成の諸相をめぐるオープンなランチタイム・ディスカッションとして、昼食を取りながら気軽に話し合い、自由に意見を交換する集まりである。1999年秋から、夏学期、冬学期それぞれ4回ほどの機会を持ち、公法学、私法学、基礎法学、政治学など幅広い北大法学研究科のスタッフに話題提供を依頼し、院生、助手あるいは学生にも場を開いて、各自の研究や問題関心を率直にぶつけ合うことで、他の専門的な研究会とはまた異なった学際的なブレインストーミングを試みている。

kenkyuzyo

 

Schedule&Information

●北海道大学大学院法学研究科と高等法政教育研究センターの主催により、7月5日~8月9日の毎週木曜日(7月18日のみ水曜日)、「IT革命と市民生活」と題した公開講座を開催中。ITがもたらす新しい市民生活とそれをとりまく社会構造の変化について、6名の講師がそれぞれの専門的立場から講義を行う。時間はいずれも午後6時30分~午後8時30分。問い合わせは 法学研究科・法学部庶務掛 電話011(706)3119まで。

●8月1日(水)と6日(月)の両日、民法理論研究会・民事法研究会と連携し、法動態部門のプロジェクトセミナーが開催される。報告は、沖野眞已(学習院大学教授)「撤回可能信託-アメリカ法における信託の意義と機能」、藤田友敬(東京大学助教授)・松村敏弘(東京大学助教授)「契約締結前の情報開示」、柳川範之(東京大学助教授)「取引法の経済学序論」等。詳細の問い合わせはFAXにて011(706)4948(法学研究科事務室)まで。

●9月6日(木)、センター主催の公開シンポジウム「市民社会の構築(仮題)」を開催する。篠原一東京大学名誉教授の基調講演の後、山口二郎センター長のコーディネートによるディスカッションを行う。

●10月20日(土)、センター主催の公開シンポジウム「戦後補償裁判の意味するもの(仮題)」を開催する。報告者はケント・アンダーソン(本学助教授)、奥田安弘(本学教授)、古谷修一(香川大学助教授)の三氏。

 

Staff Room●Cafe Politique

M a s t e r●1年目は無我夢中だった当センターも、2年目に入ると、企画のアイディアに苦労するようになる。先日の北川知事の講演には多くの反響が寄せられ、うれしくはあるが、これからも面白い企画をといわれると、やや困る。どんなテーマで誰の話を聞きたいかという提案を待っています。

クマ●Be Ambitiousを作り、『エルムの学園』の全面改定にまで参加した私が何故また広報を、と思われる向きもあろうが、このいずれにおいてもMasterにはご出演願っており、腐れ縁から編集を仰せつかった。担当はResearch updateとArts &Culture。無事、原稿集めには成功するも、「腐れ縁」の法則からいくと、この2つの項目への執筆は避けられまい。因果はめぐる、されど……。……覚悟はできています。

二代目G a r c o n●研究棟の北側にあるセンター長室は、毎年冬の間の寒さで窓枠がゆがみ、窓が開かなくなってしまうそうだ。修理をお願いして、やっと全開できるようになったと喜んでいたら、今度は目の前の木々の繁みを抜けて、巨大な蜂が飛び込んでくるようになった。さすが緑豊かなキャンパスならではの来訪者…と思ってはみたが、やはり彼らとはあまりお友達にはなりたくない。羽音におびえつつ編集したNews Letter。皆様のもとには涼風だけが届きますように。

 

Hokkaido University ●The Advanced Institute for Law and Politics

J-mail●第5号
発行日●2001年7月30日
発行●法学研究科附属高等法政教育研究センター[略称:高等研]

〒060・0809 ●北海道札幌市北区北9条西7丁目
Phone/Fax●011・706・4005
E-mail●academia@juris.hokudai.ac.jp
HP●https://www.juris.hokudai.ac.jp/~academia/

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公開シンポジウムのお問い合わせは Phone●011・706・3119まで

【Academia Juris】