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附属高等法政教育研究センター

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 刊行物・活動報告詳細

J-mail No.6 2001 Autumn

CONTENTS・・・・・・・・・・・・Autumn,2001
●J-Review:宮澤 節生
●Research Update:田口 晃/池田 清治
●Juris Report
●Relay Essay:私のユートピア⑤:逢坂 誠二
●Art&Culture:村上 裕章/遠藤 乾
●Schedule&Information

 

J-Review

いまを、斬る   
「法科大学院を密室で決めるのか」

TEXT:宮澤 節生●早稲田大学法学部教授
   MIYAZAWA SETSUO

miyazawa

 司法制度改革審議会の大きな特徴は、多くの委員が能動的な議論を展開して、事務局主導に陥ることを阻止したことと、議事録を比較的迅速に公表する等の審議の公開性によって、外部での活発な批判や提言を喚起したことである。これは、公共的決定の透明性の向上を自己の歴史的使命として宣言した審議会にとって、まことに適切な審議過程であった。ところが、本年6月12日に最終意見書が提出されて以来、司法制度改革の進行状況が報道されることはほとんどなくなってしまった。9月28日には司法制度改革推進法案の上程が報道されたが、それ自体は改革作業の具体的状況を伝えるものではない。何が起きているのだろうか。

 じつは、改革対象である者達の密室での交渉に、改革の帰趨が委ねられているのである。そのことは、改革全体の中で優先的課題として位置付けられている法曹養成制度改革において、典型的に現れている。法曹養成制度改革の中核である法科大学院の設計に関して、法学者、他分野の研究者、法曹、その他有識者からなる多様なメンバーを擁する公開かつ公式の機関として中教審法科大学院部会が設置されたにもかかわらず、教育内容自体や教育内容の第三者評価制度の設計は早々にその審議事項から外され、それらの重要事項は、法務官僚を中心として構成された改革推進準備室のほか、まったく非公式の存在である法曹三者と文科省の連絡会議、制度的地位が不明な一部学者のグループ、さらには少数の有力大学と準備室の協議によって、秘密に、しかし着々と詰められているらしいのである。これでは、審議会設置以前の政策形成過程そのものではないか。このまま放置すれば、推進本部や顧問会議が設置されると思われる12月後半には、最終意見書の提言はかなり骨抜きになっている可能性が高い。つまり、改革対象が受け容れる改革しか実現しないということである。
 この状況はどうすれば打開できるだろうか。より根本的な改革を求める者に残された時間は少ない。

 

Research Update

「宿題ばかりの研究の現状」

田口 晃●政治学 教授

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 40年前「多極共存型デモクラシー」に巡り会って以来、中部ヨーロッパ小国研究を続けている。最近はもう一つの多文化共存モデルとして、オーストロ・マルクス主義の理論家達が唱えた「二次元連邦制」案に取り組んでいる。93年以後のベルギーの新体制がまさにピッタリなのだ。その上、国家を持たぬ少数民族の国際組織が旧ソ連の民族問題解決の手法としてレンナー・モデルを提案してもいる。K.レンナーの著書の該当部分の翻訳と解説が目下の仕事である。さらにウィーンの政治史で論考「ヒトラーのウィーン」の完成と「赤いウィーン」の財政改革、福祉政策の研究が残っているし、所謂「オランダ・モデル」を搦手から攻めること、スイスのネオ・コ ーポラティズムの変遷を調べることも課題である。

 

「債権譲渡と譲渡禁止特約」

池田清治●民法 助教授

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 企業が資金を調達するさい、以前は自己の所有する不動産に担保を設定するのが一般的であったが、企業の保有する資産の内、金銭債権の比重が増した今日では、その債権を譲渡してキャッシュを得たいというニーズが高まっている。しかし、その債権に譲渡禁止特約が付いている場合、この要請を満たすことは困難であり、債権の流動化を促進する立場からは、この特約は否定的に評価されるはずであるが、国際的にも、少なくとも一定の場合にはこの特約が認められる傾向にある。その背景は何か。本研究では、現代社会における債権の「財貨」としての重要度の向上が、一方で譲渡禁止特約を斥け、他方でこれを必要とする、という些かパラドクシカルな現象とその背景を描写したいと考えている。

 

Juris Report

公開講座●「IT革命と市民生活」

2001年7月5日から8月9日 北海道大学法学部8番教室

講師:稗貫俊文(北海道大学法学研究科教授)
   宮脇淳(同教授)、齋野彦弥(同教授)
   田村善之(同教授)、村上裕章(同助教授)
   角田篤泰(同専任講師)

 恒例となっている、高等法政教育研究センター(法学研究科との共催)の市民向けの公開講座が実施された(全6回)。第1回「電子政府化と行財政改革」(宮脇教授)では、現在、中央ならびに地方行政の分野で進行中の電子政府(自治体)に向けた取り組みについて、それが単に手続き変革にとどまらず、政府内部ならびに外部経済にも構造的な変革をもたらしうるものであることが指摘され、その相互の関連が議論された。第2回「インターネットと著作権」(田村教授)では、著作権の保護とインターネットの発展の両者のバランスをとった、著作権の適切な保護が求められるているとし、プロバイダー等の責任を例示に、アメリカの法制の紹介から日本での立法論に及んだ。第3回「インターネットと犯罪」(齋野教授)では、固有のインターネット犯罪類型は意外に少ないものであることが指摘され、最近の立法例(電子署名法・不正アクセス禁止法等)の問題点が論じられた。第4回「IT社会における個人情報の保護」(村上助教授)では、ITによる個人のプライバシーの侵害の危険の増大とその防止策に関連して、条例・法案の概要が説明され、さらに国際的な規制について、欧州連合指令の制度を参考に、対応策が示された。第5回「IT発展の人的側面」(角田講師)では、科学技術においても、その人的要因が重要であり、それを無視すれば社会的な問題の要因となるのであり、特にITのセキュリティの問題はその典型であるとする。そしてこの人的要因とITセキュリティとの関連を考慮することによってハッカーからの攻撃への防御法となりうることが指摘された。最終回「ソフトウェア産業と競争政策」(稗貫教授)では、ソフトウェア産業の特徴として、自然独占の傾向が予想される産業であることが指摘された後、独占傾向の弊害は少なくないものの、従来型の規制をかけた場合には、産業の発展を阻害するだけでなく消費者利益にも反する面があることを指摘し、新たな規制方向の可能性が提示された。受講者人数は56名、年齢構成・職業にも偏りもなく、また出席率も極めて高く、この分野の一般の関心の高さを表していると思われる。講義終了後も活発な質疑が行われるなど盛況であった。

kouza

公開シンポジウム●「市民社会の構築」

2001年9月6日 北海道大学百年記念会館会議室

講師:篠原 一(東京大学名誉教授)
司会:山口二郎センター長

 長期的視点に立てば我々は第一次近代から第二次近代への途路にあると言えよう。そこではU.ベックの言う「個人化」の進展によって、一方では自己実現の可能性が増すとともに、他方では原子化として未熟な個人も生み出されて来る。従ってそこで、私的なものを出発点にしながら公的なものを自分達で作って行く市民社会の存在が大切になる。政治社会、経済社会と並ぶ第三の分野としての市民社会である。これからの市民社会の構築にあたっては二つの点に着目したい。ひとつは人のネット・ワークとしての社会資本の重要性である。従来の社会資本と区別する意味で「社会関係資本」と呼んだ方がよいかも知れない。種々の公的制度が成功するか否かの鍵がこの「社会関係資本」なのである。第二にそうした形で市民社会を立ち上げる際の方法として、協議と討議を民主主義の中心に据えることである。社会的学習と合意形成の場として市民社会を構築する姿勢はハーバーマスから最近のドライセックにいたる、新しい民主主義論に一貫している。

sympo

グローバリゼーション研究会共催
緊急セミナー ●「同時多発テロの国際政治」報告

2001年10月1日 ファカルティハウス「エンレイソウ」会議室

報 告:木村正俊(法政大学助教授)
    中村研一(北海道大学法学研究科教授)
司 会:遠藤 乾(北海道大学法学研究科助教授)

 中村研一報告は、2001年9月の米同時多発テロの特徴を政治学的に検討した。1)90年以降のテロの傾向性((1)大規模化・無差別化、(2)宗教的動機付け、(3)反米主義)の延長上にある。2)トランスナショナルな主体が実行犯。3)技術社会の脆弱性を攻撃目標として破壊効率が高い。4)米治安当局と軍は、90年代後半、テロを「トランスナショナルな脅威」とし強化してきたが、しかし在来型の安全保障は抑止・防止策として機能しなかった。5)米国のヘゲモニーを根底から動揺させる政治過程が進行している。

 木村正俊報告は、1930年代エジプトのイスラム同胞団から、現代パレスチナのハマスまでの運動の特徴とイデオロギーの変遷を分析し、「イスラム原理主義」と称される運動の多様性を明らかにした。そしてテロに対する原理主義的な動機付けとして、1)中東・北アフリカ・湾岸地域の世俗化した政権の失敗への応答であり、2)さまざまな主体によりコーラン解釈の拡散が進行し、3)暴力行使を正当化するイデオロギーが登場していることを分析した。

 

Relay Essay 5

「住民が自ら考え、行動できる町」

OHSAKA SEIJI 
逢坂 誠二●北海道ニセコ町長

ohsaka

 ニセコ町のまちづくりの大きな目標は、地域に住む我々が責任をもって自ら考え、自ら行動することだ。そこでニセコ町では、徹底した「情報の公開」と数多くの参加の場づくりに心がけている。このおかげで、随分とまちづくりの諸活動に町民の関心が高まってきたと感ずる。しかし、戦後長い間にわたって私たちに染み付いた「お任せ民主主義」、すなわち「困ったら、誰かがどこかでうまくやってくれる」などといった依存体質から抜け出すことは容易ではない。「お任せ民主主義」は、地域に暮らす我々にとって極めて楽なことであるかのように感ずる。しかし視点を変えてみると、我々には、自分たちがこの地域でどの様に暮らすのかを判断し、選択する権利が与えられていないともいえる。
 「無駄な道路事業を止めて、教育事業にお金を使うべきだ」などといった話を住民の皆さんから聞くことがある。地域で議論し、必要とされていることを、その優先順位にしたがって責任を持って仕事をすべきとの意見だが、これはもっともな指摘であり、たとえ現在より予算規模が多少縮減しても、これこそが自立的地域経営の第一歩だ。しかし今の仕組みでは、こうしたことが簡単に実現できない実態にある。仮に優先順位が低いと思われる何かの分野の事業を中止しても、その財源が他分野の事業に転換できないなどの実態があるのだ。
 つまり、自分たちの地域の理想像をいくら語っても、その姿を実現するために責任を持って地域のことを判断し、行動する仕組みに、必ずしもなっていないのだ。そこで、地域での暮らしを守るために、自分たちが自らの責任で、自分たちの地域のことを考え決定し、行動する権利と責任を手にすることがニセコ町のユートピアに近づく第一歩だ。この権利と責任(自治権と言っても良いか?)を手にできないまま、どこかで誰かにコントロールされている限り、いつまでも自分たちの身の丈に合わない、どこか奥歯にモノの挟まった地域づくりが続くであろう。

 

Art&Culture

OPERA『フィガロの結婚 』

法学研究科助教授 村上裕章

 バイエルン国立歌劇場の来日公演「フィガロの結婚」を観る機会があった(9月27日東京文化会館大ホール、Z・メータ指揮、D・ドルン演出)。歌手の邪魔をしたいのではないかと勘ぐりたくなるような演出が少なくない中、斬新でありながら説得力に富む好演だった。

 第4幕の夜の庭園の場面も含め、すべては非常に明るい方形の空間の中で演じられ(初夜権の復活をたくらむ伯爵をすでに近代が取り巻いていることの隠喩だろうか)、舞台装置も最小限に抑えているが、スピーディで無駄のない動きによって、観客の注意を一瞬も逸らさない。特に間の取り方が絶妙で、意図的に音楽の開始を遅らせ、緊張感を高めたり、笑いを誘ったりといった効果を上げていた。ソリストは若手中心で物足りない面もあったが、フィガロを演じたB・ターフェルは豊かな声と達者な演技で第一人者の貫禄を見せた。

 

「似て非なる世界」

法学研究科助教授 遠藤 乾(在/米国ケンブリッジ)

 みかけは、おそらく例年と変わらぬハロウィーンである。しかしみな、地下鉄に乗る前に一寸ためらうようになった。小包や封筒さえ、見知らぬ人からのものだと、しげしげと見回してから開ける始末。

 およそ恐怖というものから縁遠い人生であった。唯一思い起こすのが、あるレヴューにだまされて「第一級殺人」(O・ストーン)を観た直後、平和なフィレンツェの街路地で、すれ違う人という人すべてに襲われるのではないかとおびえた、あの半時ほどの時間である。
 今回のテロも、その衝撃とはべつに、当初はどこか、どこまでも他人事であった。前日まであいさつしていた隣のジョンが、WTCへ突っ込んだアメリカン航空11便に乗っていたのを知らされたときですら、まだうわのそらだった。数日後、彼の母親が神経質そうな笑い顔を浮かべて、フラットから荷物を引きあげにきたとき初めて、その衝撃的な他人事は、少し近くなった。そして、細菌テロが、フロリダから北上してくるのをニュースで感じとると、わたしだけでなくまわりの人もそわそわし始めた。
 テロは、結局2度成功した。ビルが崩れ落ち、数千人が犠牲になったとき。そして、恐怖がじわじわと心に刻み込まれたとき。日常のなかで、われわれは異なる世界を生きている。

 

研究会紹介

市民参加システム研究会

 センターでは、市民活動との連携の新しい実験として、特定非営利法人(NPO)参加型システム研究所(横浜市)の委託を受けて、市民参加システム研究会を発足させ、9月に最初の研究会を行った。参加者は、本研究科から、今井弘道、田口晃、山崎幹根、および山口センター長、これに学外から琉球大学の島袋純氏が加わっている。第1回の研究会では、研究会メンバーに加えて、委託元の参加型システム研究所からも数名が参加し、島袋氏がスコットランドにおける地方分権と市民活動の展開について、田口氏が北海道におけるNPOの現状と課題についてそれぞれ報告を行った。
 今後は、2、3回研究会を行い、市民社会論に関する理論的な研究、イギリスと日本の市民活動に関する比較研究を踏まえて、日本における政策形成・実施に関する市民参加のあり方について、提言をまとめる予定である。また、来年はじめにも、市民参加システムのあり方についてシンポジウムを開催する予定である。
 実務との連携の中でも、今回のように市民活動との連携は初めての試みであり、成果が期待されている。

 

Schedule&Information

 当センターでは、12月7、8日の両日、北海道大学学術交流会館において、国際シンポジウム「グローバリゼーション時代におけるローカルガバナンスの変容」を開催する。この研究集会は、日本学術振興会の援助および日本政策投資銀行の協賛を得て開かれる。
 この会議は、グローバリゼーションがもたらす様々な変化によって地方政府における政策形成や実施がどのように影響を受けているかを国際比較の観点から明らかにするものである。一次産業や地場産業の衰退、税収減による財政難の深刻化など、グローバリゼーションのもたらす負の側面に対して地方政府がどう対応しているかという問題だけではなく、自治体間のネットワークによって下からの対抗グローバリゼーションが可能かどうか、グローバリゼーション時代におけるローカルな民主主義の可能性などについても議論する予定である。
 会議は両日にわたって公開され、関心のあるスタッフ、大学院生の参加も歓迎される。
 主な参加者は次のとおり。
《外国からのゲストスピーカー》
 マイケル・キーティング(ヨーロッパ大学)、ステファノ・バルトリーニ(ヨーロッパ大学)、トマス・ヒュ ーグリン(ウィルフレッド・ローリエ大学、カナダ)、蔡秀卿(台湾大学)、梁承斗(延世大学)

《国内他大学からの参加者(報告者、コメンテーター)》
 城山英明(東京大学)、島袋純(琉球大学)、小川有美(千葉大学)、新川達郎(同志社大学)、佐藤克廣(北海 学園大学)、津田由美子(姫路獨協大学)

 

Staff Room●Cafe Politique

M a s t e r●10月後半は、大型研究費の申請のため様々な書類を書くのに忙殺され、ニュースレターの原稿を後回しにして、発行が遅れてしまいました。申し訳ありません。それにしても、これが当たればセンターも、金集めの心配をしなくてすむと、期待をつないでいるところ。
 昨年講演に来てもらった田中真紀子外相に、そのときのお返しという感じで、手助けを頼まれる。内情を聞くにつけ、役人組織を改革することの難しさを感じる。

G a r c o n●いつもながらの夕食の席で、不肖6歳の息子がつぶやいた。「ママ、ぼくは何歳まで生きられるんだろうか」「?」「8歳くらいまでかな。ほら、だってどっかで戦争とかやってるし」。振り返ると今日もTVには米軍侵攻の画面……。私達が彼等に手渡そうとしている世界はすでに、幼子の日常にそんな感覚を芽生えさせるほど、変質しているのだろうか。誰の意図で? 誰の行為によって? わたくしのではなく、誰かの。

二代目クマ●原稿をお願いするのも集めるのも初めて。いわんや編集後記なんて思ってもいなかったのだが、北の国からの法政メッセージはこの国の将来にとって貴重な財産となる、などといった心意気で、何とか火を絶やさないようにします。いまや色とりどりの紅葉に染まり、あのヒグマも無事に生きている西野の野山に、心をいやされながら。

 

Hokkaido University ●The Advanced Institute for Law and Politics

J-mail●第6号
発行日●2001年11月15日
発行●法学研究科附属高等法政教育研究センター[略称:高等研]

〒060・0809 ●北海道札幌市北区北9条西7丁目
Phone/Fax●011・706・4005
E-mail●academia@juris.hokudai.ac.jp
HP●https://www.juris.hokudai.ac.jp/~academia/

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公開シンポジウムのお問い合わせは Phone●011・706・3119まで

【Academia Juris】