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附属高等法政教育研究センター

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 刊行物・活動報告詳細

J-mail No.8 2002 Spring

CONTENTS・・・・・・・・・・・・Spring,2002
●J-Review:島村 英紀
●Research Update:宮脇 淳/長谷川 晃
●Juris Report
●Relay Essay 私のユートピア(6):遠藤 乾
●Art&Culture:小森 光夫/林田 清明
●Information

 

J-Review

いまを、斬る●  
巨大科学の「裏」

TEXT:島村 英紀●北海道大学大学院理学研究科・地震火山研究観測センター教授
   SHIMAMURA HIDEKI

shimamura

 理科系の研究には道具が必要だ。その道具は年ごとに大型化している。加速器。観測船。巨大望遠鏡。全国規模の地震観測網。いずれも巨費がなければ出来ない設備だ。

 設備を獲得するための金が得られなければ研究のスタート地点に立つことさえ出来ない。国民に夢を売る宇宙や天文。国民を「人質」に取った地震予知研究。純粋な理学的研究だというだけで巨費を出すほど国も財界も甘くはないから、良く言えば涙ぐましい努力、ときには恫喝まがいの手練手管さえ繰り広げられている。
 ある官庁の特殊法人がある。大きな海洋観測船や深海潜水艇を何隻も持ち、今は海底に深い穴を開ける深海掘削船を作っている。6万トンもある巨船だ。南極輸送船を獲得して新造するのも狙っている。現在の3倍もの巨船だ。自衛隊の海外派兵が不可能だった時代に派兵の突破口になったのがこの砕氷船だった。しかし、いくらでも海外派兵が出来るようになった現在の自衛隊にとってはお荷物になった。もともと南極観測が主目的ではなかったからだ。
 こういった船、つまり高価な研究手段が増えることは研究にとってめでたくない話ではないだろう。多くの科学者は、これらの船が続々と作られて科学を進める夢に胸を膨ませているのである。
 しかし裏もある。その特殊法人の理事には、親官庁の官僚が次々に天下りしている。しかもその理事たちは、その後さらに造船会社に天下りしている。こうして国費で作る巨大で高価な船の注文が造船会社を潤しているのだ。
 かくてお役人の天下り先が確保され、日本の産業が潤い、日本の科学が進み、真理が探られる。八方丸く収まっている日本的な構図と言うべきなのだろうか。
 かつて科学者は王侯貴族をパトロンにした。時代の風を受けて颯爽と見える現代の科学者も、誰かの掌の上で踊らされている孫悟空では、というのが科学者として私が感じる哀しさなのである。

 

Research Update

「グローバル化の中の行財政改革」

宮脇 淳●行政学 教授

niyawaki

 特殊法人、独立行政法人、市町村合併など行政組織の改革が財政危機を背景に様々な角度から議論されている。その根底に流れるグローバル化は、従来の一国を単位とする制度、政策の限界を再び強く問いかけている。国の単位は、小さすぎると同時に大きすぎる側面を広げている。こうした環境の中、 地域価値、コミュニティを基本とする地方自治体が自立的に政策形成を展開するための財政金融制度、 行政組織のあり方をテーマとして考察している。とくに、道州制を視野に入れた国と地方の関係、政令指定都市の位置づけ、公私連携、公共サービス提供の多様化などを当面集中して検討すべき課題と考えている。PFIの発注審査、政策評価システムの形成、行政組織の見直しなどについて、地方自治体と連携をとって実践的な検討を行っている。

 

「<法>の<哲学>の試み」

長谷川 晃●法哲学 教授

hasegawa

 近年は、まず正義としての公正の理念と法秩序の構造化の関係について考えています。最近公刊した拙著『公正の法哲学』での価値論的考察をもとに、さらにそこから要請される法規範群の新たな整序の可能性を構想するものです。このテーマはまた立憲主義思想の受容と発展の条件という法思想史的テーマにもつながっています。正義観念と法秩序のあり様が関係しているという見方は立憲的民主制の思想に連なるものなので、その歴史的系譜を探り、さらにその受容過程でいかなる変化が見られるかという問題が重要になります。もう一点、これらの問題は別の側面で正義、あるいは自由や平等などの価値がいかに存在しまた変容するのかというメタ倫理学的問題を含んでいます。そこで、価値と意味に関する哲学的分析にも大きな関心を寄せています。

 

Juris Report

公開シンポジウム●
『国民の司法参加』の過去・現在・未来

2002年1月30日 文系共同講義棟8番教室

報告者:三谷太一郎(成蹊大学法学部教授)
   佐藤博史(東京第二弁護士会弁護士)
   白取祐司(本研究科教授)
コメンテーター:登石郁朗(札幌地裁判事・北大客員教授)
司会者:尾崎一郎(本研究科助教授)

 現在急ピッチで進行している司法制度改革の重要テーマの1つである「国民の司法参加」、より具体的には刑事司法における「裁判員制度」の導入に関し、従来の「陪審か参審か」をめぐる不毛な対立に距離をとり、そもそも司法手続きに「国民」が参加するとはどういうことなのかを根源的に考え直すことを狙って、本シンポジウムを企画、開催した。
 いずれもこの問題につき注目される発言を続けている方にパネリストをお願いしたが、政治史、弁護士実務、刑事訴訟法学、裁判官実務というパネリストおよびコメンテーターの異なる関心とバックグラウンドが相補して、アカデミックかつインフォーマティブな議論を展開することができたように思われる。司法権力の政治的正統性の担保としての市民参加という外的視点の提示から、実際の法廷における法的推論の内在的分析に基づく市民参加の意味と意義の解明に至るまで、様々な議論が交錯し、司会者としても大いに刺激を受けた。(尾崎一郎記)

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教育開発プログラム●
新しいケース・メソッドの基盤整備

2002年2月13日 法学部情報端末室

報告者:松浦好治(名古屋大学大学院法学研究科教授)
   養老眞一(大阪大学大学院法学研究科助教授)
司会者:松村良之(本研究科教授)

 米国においては法学教育の方法は19世紀の後半のケース・メソッドの導入により劇的に変化した。そこでは学生は教師から学ぶのではなく自習と実習を中心に学び、また指名された仲間の学生の教室内でのパーフォーマンスから学ぶことになる。しかし教室で学生の学習達成度はモニターされず、達成度の評価は期末試験によってなされるに過ぎない。従って、今回開発された新ケース・メソッドでは、実習・体験を中心に法を学ぶというコンセプトを継承しながら、コンピュータネットワークの新しい技術である、評価投票システム、理解度確認システム、双方向のマルチメディアグループウェアを導入することにより、伝統的ケース・メソッドの欠点を克服することを目指した。具体的に述べれば、評価投票システムでは、学生全員について、自分のレポートは必ず何人かの仲間によって評価され、仲間の優秀レポートを共有することにより、仲間から学ぶということが効果的に達成される。理解度確認システムでは講義中に教師が学生の理解度を測定することができ、それに応じて講義を柔軟に補正できることになる。また、双方向マルチメディアグループウェアの導入により、画像、音声、テキストの共有と双方向からの随時書き込みが可能になり、大学の枠を越えた遠隔地間の共同授業を行うことができるようになる。

 

公開シンポジウム●
アサノ知事の戦い

2002年3月16日 クラーク会館大講堂

講 師● 浅野史郎(宮城県知事)
討論者● 宮脇 淳(本研究科教授)
   山口二郎(センター長)

 前半の基調講演において、浅野氏はこれからの県政において、従来の「お任せ民主主義」から本物の民主主義の実践を図りたいというみずからの理念を展開した。そのための重要な道具となるのが、情報公開、NPO、そして地方分権である。
 地方分権は真の民主主義を実現するために不可欠の要素であるが、なかなか進まない。浅野氏はこれについて、次のように説明している。分権の困難さは国民が集権体制の弊害を実感として理解していないところに理由がある。たとえば、BSEの発生は農水省の責任であるが、日本では中央政府の官僚が土地改良のような地方でできる政策に金と口を出し、BSEのように国でしかできない問題に対する情報収集と政策づくりが十分できないという逆転現象がある。これらの問題の背後に集権体制、あるいは国と地方の役割分担のねじれが存在することを国民に訴える必要がある。
 後半の鼎談では、宮脇、山口両教授が政と官の関係、政策評価の取り組み方などについて多彩な議論を提起し、浅野氏も自らの経験を通して自治体民主主義の活性化について説得的な議論を展開した。公共事業に対する政治家の介入が大きな問題となった時期に、時宜を得た企画となった。

koukai

 

Relay Essay 6

「わたしのユートピア」

遠藤 乾 ENDO KEN
●ハーバード法科大学院研究員/北海道大学法学研究科助教授

endou

 そこでは、尊厳のかけらもない死を、ひとつひとつ悼む。
 ある大都市のビルで無実の市民が数千人の規模で殺されたとき、小躍りしたりしない。心密かに拍手喝采したりしない。
 自国の兵士が8人死んだとき涙ぐむ大統領は、同時に、その近東における同盟国が一聖地の教会や学校を爆撃し、ろくな武器も持たぬ人間を空対地ミサイルで一日に50人も殺戮する事態に対し、決して沈黙しない。ましてや、毎日、母子を含めた一般市民がより多く殺される方だけを一方的に責めたりするはずがない。
 9/11が分け隔てた1年のあいだに人権の評価基準が変わることもない。したがって、2000年の政府報告書では、ある中東における同盟国の軍事法廷を厳しく糾弾しながら、2001年の報告書では、その記述をあっさりと削ったりしない。その理由は、自国-自由を国是とする世界最強の帝国-が、みずから軍事法廷で恣意的に裁判を始めるからなわけがない。
 自由の松明を掲げるその帝国は、敵がにくいあまり、敵と間違えて、味方の一般市民を誤爆したりしない。かりにそんな重大な過ちが起こったとしても、それを自らのミスではないと言い張ることなど考えにもおよばない。そのような発想の延長上で、自国・友好国を含めた世界中の市民やジャーナリストに、わざと偽情報を配信する連邦政府機関を設立する計画などもつわけがない。
 いまや国際法廷に連行することに成功した犯罪者がかつてある欧州国家の元首だったとき、かれの引き起こした民族浄化と強制収容を理由に、その国民を爆撃しておきながら、自国が攻撃されると、ある特定の民族・宗教に関わる人を片っ端からつかまえて、長期間、名前も理由も明らかにせず拘留したりしない。あるいは、ちょうどその欧州国を爆撃しているとき、極東におけるある専制国家が、強制収容所を十数カ所も設けているのを知りながら、それらを「単なる刑務所」などと偽らない。
 世界最強の帝国は、最強神話に彩られた「裸の王様」かもしれない。同盟国の民は、「王様」だけを見てはいない。むしろ、はやしている周りの人たちの表情をよく観察しているはずである。そして、その「王様」の通ったあとに残る惨状を記憶にとどめておくに違いない。当然、批判精神にあふれたそんな同盟国の人たちは、「王様」に対して、プードル犬のように媚びを売ろうなどとは夢にも思わない。
 道義のコンパスは、文明や国境を越えた強い磁場にあっても、ぐるぐる回らない。

  (2002年3月12日)

 

Art&Culture

「植物のこころ」

塚谷裕一 著
岩波新書 2001年5月

  著者によれば、生命活動は「自らの細胞構造を代謝によって自己複製すること」と定義される。本書は、人と同じように生命を持ちながら自らは移動できない植物が、多様な形で自然に適応して行くことによって、いかにも自らの意志を持ちまた考えを持ってその生命の営みをしているかのような、その懸命な姿を描き出している。生殖の違いに関わる性の意味や、桜の花がなぜクロ-ン化しているかなど、普段はそれと気づかないさまざまな問題を、最近の学問研究の知見を基に優しく伝えてくれる。植物の世界からは、クロ-ン人間の是非など、権利や倫理という本来は人間の関係に関わる規準を自然世界と考えられていたことにまで広げ、それぞれの思いから熱く論じられる人間の知恵が、どこか不自然に思えてくる。閉じ籠りがちな専門研究を一般の人にも広めようとする著者の熱いこころが一見もの静かな植物のこころを通して語られる。興味深く読むことができた。

小森光夫

「続続歌舞伎年代記」

田村成義編著
(市村座、1922年)

 「『十六夜か。』『清心さまか。』女は男に縋(すが)って、『逢ひたかつたわいなア。』
 見物人が『やア御両人。』『よいしょ。やけます。』なぞと叫ぶ。笑う声。『静かにしろい。』と叱りつける熱情家もあった。」(永井荷風『すみだ川』[明治42年])。
 小芝居小屋の宮戸座の雰囲気が伝わってくる。同じ黙阿弥の『三人吉三』を法学の素材に使ったのは川島武宜博士である。大審院判事の三宅正太郎は泉鏡花と親友だったが、大の歌舞伎ファンだった。いささか強引に言えば法律と歌舞伎は無縁ではない。明治の政治言論における自由民権運動と違い、演劇の近代化は旧(下級)武士=新興貴顕紳の思いのままだったのではないか。当時の演劇の法政策と人々の息吹を感じるような作業をしたい。そこで貴重な資料なのが標記の本である。歌舞伎座・市村座の経営の中枢にいた法曹出の田村自身が、安政6年から明治36年までの歌舞伎興行年表を軸に見聞した記録である。

林田清明

投稿

知の羅針盤たれ

専門学校講師 小堀 学

 母校というわけではない北大に、近年足を運ぶことが多い。職業柄、高等研のシンポジウムで識者たちの深い洞察に触れたいということもあるが、実のところ、その洞察を支える広い視界に驚き、日常の些事を忘れる解放感を味わうべくキャンパスについつい足を踏み入れてしまうのだ。ライヴであることもまた魅力の1つで、例えば怒れる金子勝氏を目の当たりにして、氏の知性とあの語り口が無縁でないことを知った。日常の喧しさから一歩身を引き、社会を俯瞰してみたいと考えるとき、キャンパスは快適な場所の1つとなる。
 とは言え、私たち市民にとって大学の敷居がまだまだ高いことも事実だ。それは制度的なくびきと言うよりも、市民社会の中でどのような役割を果たしたいと考えるのか、当の大学からのメッセージがそれほど明確に伝わってこないことに由来すると思われる。大学の持つポテンシャルに見合うだけの説明責任が果たされているとは言い難い。大学の倒産が相次ごうとする中で、それぞれの大学が自らの存在証明を明らかにしなければならないほど、事態は危機的である。外部との緊張感を欠き、ブランドに安住し、自己改革能力を失った組織の醜態が次々と白日の下に晒されている。私たちが見たいのは、国立大学法人化などという「政府による改革」ではなく、自らを聖域としない「大学からの改革」である。もっと具体案が出ていい。もっともっと市民社会を巻き込んでいい。
 「私は、どのような社会で呼吸し、どこに行こうとしているのか」。企業で働いているとき、NPO活動をしているとき・・・・それぞれの立場で直面する問いである。ドッグイヤーと言われるほど加速するこの世紀の時間の中で、ゆっくりと深呼吸しながら、自分が現在立っている位置と歩むべき方向を見定めたい。大学は市民が持つ多様な関心に応え、1人1人の「知の羅針盤」になることができるだろうか。輝かしい伝統の中で北大が培ってきた目の眩むような知の集積に期待をしながら、改革の行く末を注視している。
 高等研が2年前、イゾベル・リンゼイ氏を招いて「地方分権」というテーマを掲げて船出したことを思い出す。大学をめぐる環境が厳しさを増していたにもかかわらず、その場には現状に決して満足することなく、自らの歩むべき方向を真摯に考えようとする多くの市民が集まったはずだ。勇気づけられた市民たちの大志が交錯する中で発せられた会場の熱っぽさがどうしても忘れられない。その熱が広く深くたぎるとき、北海道は火傷しそうなくらいに熱い大地となる。高等研の責任はますます重いと言わねばならない。

 

Information

●去る2月7日、国立台湾大学法律学院助教授・陳妙芬氏をゲスト報告者に迎えて、プロジェクトセミナー「法形成における立憲的合意の意義」が開催された(法学会・法理論研究会・「体制転換と法」研究会との共催)。

●センターでは6月21日(金)、坂野潤治・千葉大法経学部教授(東大名誉教授)を講師に迎えて、講演会を行う。テーマは「15年戦争論再考」。文系共同講義棟9番教室にて16時30分より、学内対象に開催。多数のスタッフ・学生の参加をお待ちしています。

 

Staff Room●Cafe Politique

二代目クマ●ナント市は、1985年、フランスで最初に市電を復活させた町である。中心部と郊外部を結ぶ3路線で総延長30kmを越え、1日15万人以上が利用している。3番目の開業は2年ほど前だが、その際、15世紀頃の城門遺構が発掘された。大部分は軌道下に埋め戻されたが、一部はそのまま保存され沿線風景を彩っている。高速低床式LRTと歴史的遺産が一体となり、魅力的な中心市街地を形成している例である。札幌等にもLRTが颯爽と疾駆する日が来ないものかと心待ちにしている。

G a r c o n●3月16日に行われたシンポジウムの会場はクラーク会館講堂。各界で手腕を発揮する浅野史郎宮城県知事の講演を楽しみに、学外からも大勢の方がつめかけて下さいました。なかには、車いすや歩行補助機をお使いの方、タクシーでお越しの高齢のお客様も。ところが、会場への入り口はコンクリートの階段のみでスロープもエレベータもない!学生スタッフがお手伝いして、皆さんに入場してていただいたものの、バリアフリーとはほど遠いこの状況、恥ずかしいかぎりです。

M a s t e r●先日、大型研究費採択に関するヒアリングを受けに、学術振興会へ行く。いつもは試験をする側だが、十何年ぶりでされる側に回り、緊張する。予算獲得のために鈴木宗男にすがる市町村長の気持ちがわかった。
 新年度を迎え、センター長の任期は終わったはずなのだが、次のセンター長に適切な人がいないと言われ(そんなことを言っていたら永久にやり続けなければならなくなる!)、もう1期引き受けることになる。今年度も相変わらずのご支援をよろしくお願いします。

 

Hokkaido University ●The Advanced Institute for Law and Politics

J-mail●第8号
発行日●2002年4月30日
発行●法学研究科附属高等法政教育研究センター[略称:高等研]

〒060・0809 ●北海道札幌市北区北9条西7丁目
Phone/Fax●011・706・4005
E-mail●academia@juris.hokudai.ac.jp
HP●https://www.juris.hokudai.ac.jp/~academia/

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