本センターは、前センター長である田村善之教授(現東京大学大学院法学政治学研究科教授)のリーダーシップの下、以下の理念を掲げて設立されました。

 本センターは、21世紀COEプログラム『新世代知的財産法政策学の国際拠点形成』の成果である「知的財産法政策学」を継承・発展しつつ、知的財産にとどまらない、より広範な「情報」という切り口から各種法制度を横断的に俯瞰する学問領域を構築することを目的として、2008年4月1日に設立されました。

1990年代以降の高度情報化の進展により、情報化社会は、ますます多様化する膨大な問題を伴いながら、新しい段階に移行しようとしています。たとえば、インターネットの普及は、著作権等の権利者とユーザーとの間の対立を先鋭化させ、バイオテクノロジーの発達は、ヒトの遺伝子情報に関する特許という問題を突きつけています。国際的にも、TRIPs協定施行のなかで、AIDS医薬品問題や伝統的知識の問題など、先進国・途上国間の軋轢が増大しています。

21世紀COEプログラムの研究成果によれば、知的財産を巡る国内外の様々な軋轢を解決するためには、利用の自由など効率性以外の価値との衡量を図る必要がありますが、効率性の達成度を測定するのは困難であるため、特定の制度の採用を効率性からのみ帰結主義的に正当化することはできません。そのため、制度を採用するに至るプロセスに着目すべきですが、立法や政策の形成過程にはバイアスがかかりやすいことにも留意すべきです。そこで、立法・行政・司法がそれぞれの機能と性格に応じた役割を果たすようにすることで、こうしたバイアスを回避し、自由や正義を確保することが重要となります。

これは、知的財産法に限らず、情報化が亢進する現代社会の諸問題の中核部分を解明するための基礎的理論ともなりうると考えます。社会構成にとって情報が決定的に重要になった今日の状況に対し、有体物を前提とする伝統的法学では有効な解を提示することができません。従来の情報法学も、個別領域の問題にとどまっており、有体物と対比した場合の情報の特質を解明しておりません。本センターでは、21世紀COEプログラムが確立した「知的財産法政策学」を個人情報、競争市場、インターネット等の規律に応用することで、効率性の契機、自由・正義の確保、民主的決定や共同体の決定による正統性などの観点に着目しつつ、問題分野ごとに市場、立法、行政、司法等の役割分担を図る「情報法政策学」の構築をめざします。

また、こうした研究成果を社会的に還元するとともに、情報や知見を交換し昇華するため、学生向けの講義に加えて、実務家を対象としたサマーセミナーを開催する予定です。特に、後者については、個別トピックを解説するのではなく裁判例の網羅的な理解に基づいて体系的な知的財産法の解説を行う、他にあまり例をみないセミナーとする予定です。

さらに、従前からの国際的人材交流および21世紀COEの成果である国際的ネットワークを活用し、世界への情報発信とともに、世界的水準の研究センターとしてその存在感を示していければと考えております。

以上の理念の下、本センターは10年以上活動してきました。この間、学術界、実務界から国内外の多様な専門家のご協力を得て数多くの研究会等を開催するとともに、「知的財産法政策学研究」を通じて学術的な成果を広く発信してまいりました。また、サマーセミナーにも多数の皆様にご参加いただいております。今後も、本センターでは、これまでの活動の成果を継承し、築かれたネットワークをも活用しつつ、その活動の充実深化を図っていく所存です。

2019年4月
北海道大学情報法政策学研究センター長
中山 一郎(大学院法学研究科教授)

 

事業計画

1. 大学院共通科目の設置(2008年度より)
2. 学外向けサマーセミナー(2009年度より)
3. 雑誌「知的財産法政策学研究」の発行継続、研究会・国際シンポジウムの開催、資料収集・データベース/アーカイヴ構築など、21世紀COEプログラムの事業の継承(2008年度より)

センターへのアクセス

こちらよりご確認ください。