平成15年度法学研究科公開講座
少子・高齢社会のゆくえ -法的・政策的アプローチ-

主催/北海道大学大学院法学研究科/附属高等法政教育研究センター

 少子・高齢社会の到来は、従来の家族、地域社会、自治体のあり方を大きく変えようとしている。変化に対応するためには、いかなる法的、政策的な対応が求められているのであろうか。この講座では、少子・高齢社会のインパクトと法的、政策的な対応を多角的な観点から検討する。具体的に役立つ知識から、流れを見通す巨視的な視点まで、幅広い論点をカヴァーしながら、少子・高齢社会のゆくえを考えていく。

高齢社会の法的諸問題

講師:北海道大学院法学研究科・教授 藤原正則

 本講義では、高齢社会の到来が法にとってもつ意味を大局的にとらえながら、日本の法体系にどのような問題が生まれているかを具体的に考えていく。まず、現代法の社会的基盤の変化を歴史的に回顧し、とくに家族をめぐる環境の変化を浮き彫りにする。次に、こうした変化の方向をふまえて、私たちにとって切実ないくつかの法的諸問題、たとえば、扶養義務、遺言慣行、生前処分と死因処分、寄与分、成年後見、遺留分などについて、基礎的な解説を交えながらその現状を考える。その上で、介護保険などで先行したドイツの事例とも比較をしながら、高齢社会の課題に応える法のあり方について展望をしていく。

少子・高齢化と社会福祉基礎構造改革

講師:北海道大学院法学研究科・教授 倉田聡

 わが国では、戦後50年間、行政が公的責任に基づいて介護や保育などの福祉給付を供給する仕組みが採用されてきた。しかし、少子・高齢化社会の到来は、これらの福祉給付の受給対象を量的にも質的にも増加させ、必ずしも行政による少数者救済という仕組みでは対応できなくなっている。わが国では、平成12年度より介護保険法が施行され、平成15年度からは障害者福祉の領域に支援費支給制度が導入されるなど、「社会福祉基礎構造改革」と総称される改革がすすんでいる。しかし、その内容や具体的な問題点は、マスメディアの不勉強もあってよく知られているわけではない。そこでこの講義では、介護保険や支援費といった新しい福祉給付の仕組みをわかりやすく解説すると同時に、これらの仕組みがかかえる現実的な問題点を検討する。

超高齢社会と政治の責任

講師:京都大学院法学研究科・教授 新川敏光

 超高齢社会を迎えて、先進諸国では基本的には福祉削減の政治がすすめられている。日本でも医療費の自己負担増などが相次ぎ、これが消費を冷え込ませるという悪循環が生じているが、高齢化に伴う福祉財源の逼迫から、こうした措置もやむなしという見方もある。しかし、超高齢化という点で一歩先んじた北欧諸国などでは、福祉国家の規模を維持する政治がおこなわれ、福祉と経済の両立に基本的に成功していることを考えると、こうした政治選択は唯一の道とはいえない。しかも、日本の政治は70年代の福祉拡大の時期に、企業や家族に福祉を委ねる日本型福祉の方向に梶を切ってしまった経緯もある。いま政治は何をすることができるのか。戦後福祉政策をめぐる政治の軌跡を辿りながら、超高齢社会における政治の責任を考える。

家族の変容とフェミニズム法学

講師:研究科・助教授 尾﨑一郎

 少子・高齢社会の到来は、家族のあり方の変容をも意味している。家族は、多様化し、個人化し、流動化している。その結果、伝統的家族像を暗黙の前提とした法のあり方は根本からの問い直しを受けている。この講義で は、家族の変容をとくに個人や女性という概念との関係において多面的に検討する。特に、フェミニズム法学の発展を手がかりとしながら、新しい家族像と法の接点を探ることにしたい。

少子・高齢化と日本社会の転換

講師:北海道大学院法学研究科・教授 宮本太郎

 少子・高齢化に対応して、日本社会にはいかなる選択肢が残されているのであろうか。従来、示されてきたシナリオは次の三つであった。すなわち、アメリカのような市場原理主義と民営化の道、スウェーデンのような高福祉高負担の道、そして家族や企業の雇用慣行が重要な役割を果たすいわゆる日本型福祉の道、である。しかし、アメリカ型の道は格差拡大などの弊害が目立ち、スウェーデンのような大きな福祉国家の実現可能性には疑問符がつけられ、日本型福祉を支えた家族や企業のあり方も根本から変わっている。介護保険などの導入以後も、新しい方向性は判然としていない。ここでは、欧米における様々な新しい福祉政策の展開を紹介しながら、それを日本に活かした新しい福祉国家、福祉社会のあり方を考える。

開催概要

1. 開講日程

第1回 平成15年7月24日(木) 高齢社会の法的諸問題
北海道大学院法学研究科 教授 藤原正則

第2回 平成15年7月31日(木) 少子・高齢化と社会福祉基礎構造改革
北海道大学院法学研究科 教授 倉田聡

第3回 平成15年8月7日(木) 超高齢社会と政治の責任
京都大学院法学研究科 教授 新川敏光

第4回 平成15年8月21日(木) 家族の変容とフェミニズム法学
北海道大学院法学研究科 助教授 尾﨑一郎

第5回 平成15年8月28日(木) 少子・高齢化と日本社会の転換
北海道大学院法学研究科 教授 宮本太郎

2.実施会場

北海道大学人文・社会科学総合教育研究棟 W101室
(札幌市北区北9条西7丁目)

3.受講資格

18歳以上の方であれぱどなたでも受講できます。(学歴は間いません。)

4.定員

50名(定員を超えた場合は抽選になります。)

5.申込要領

(ア)申込期間

平成15年6月2日(月)から平成15年7月22日(火)まで(土曜日・日曜日及ぴ祝日を除く)
毎日午前9時から午後4時30分まで

(イ)申込場所

札幌市北区北9条西7丁目
北海道大学法学研究科・法学部庶務掛

(ウ)申込手続

受講申込書(コピー可)に必要事項を記入のうえ、直接又は郵送でお申し込みください。
(受講者証は公開講座初日にお渡しします。)

6.受講料

(ア)金額

6,200円

(イ)納付方法

公開講座初日の平成15年7月24日(木)に受付へ納めてください。
なお、納入された受講料はお返しできません。

7.修了証書

4回以上受講した方には、修了証書を授与します。

8.その他

この講座についての照会は、下記で取り扱っております。

●申込場所及び実施会場略図

申込場所・実施会場
地下鉄「北12条駅」下車徒歩10分(約600m)
中央バス「北大正門前」下車徒歩5分(約300m)
JR札幌駅「北口」より徒歩13分(約800m)
※車での来学はご遠慮願います。