平成24年度公開講座「東アジアのなかの北海道」主催/北海道大学大学院法学研究科/附属高等法政教育研究センター 後援/札幌市教育委員会(道民カレッジ連携講座「教養コース」)

 このたび, 法学研究科及び附属高等法政教育研究センターでは,7月26日から8月23日までの毎週木曜日(8月16日を除く),全4回にわたって,公開講座「東アジアのなかの北海道」を開講し,定員の50名を上回る60名の受講者を得ました。

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 地方が東京を経由せずに,直接,国際社会とつながる時代が到来し,国際社会とのヒトやモノのダイレクトな太い流通網をどれだけ築けるかは,地域の発展のかぎを握る要素ともなっています。北海道には豊かな自然環境と国際競争力のある農水産業があり,それらを活かした国際戦略をいかに展開するかが問われています。

講義風景
【講義風景】
みなさん,熱心にメモをとられていました(写真は第2回 2012年8月2日)。

 北海道にとってとりわけ重要な意味をもつパートナーは目下のところ中国,台湾,韓国などの東アジアの諸地域です。実際,これらの地域では近年,たいへんな北海道ブームが起きており,多くの観光客が押し寄せています。札幌をはじめ各地の観光地で中国語やハングルの看板や標識が目立ち始めています。

 本講義では,東アジアとかかわりの深い4名の研究者,実務家を講師とし,東アジアから北海道がどう見えているかを語っていただき,東アジアの人々が北海道にどんな視線を送っているかという角度から北海道の国際化戦略を展望しました。
  東アジア各国と北海道や北大との意外な歴史的つながり,各国における北海道に対するイメージの変遷など,東アジアと北海道の「今」を伝える講義に,受講者も熱心に聞き入り,休憩時間中も講師に質問をする様子も見られるなど,好評のうちに全日程を終えることができました。

講義一覧

日程 講義題目 講師
第1回 7月26日(木) 北海道の国際化と東アジア 北海道大学大学院法学研究科
附属高等法政教育研究センター
教授 鈴木 賢
第2回 8月 2日(木) 中国から見た北海道 北海道大学
メディア・コミュニケーション研究院
教授 野澤 俊敬
第3回 8月 9日(木) 台湾から見た北海道 台北駐日経済文化代表処
札幌分処
処長 徐 瑞湖
第4回 8月23日(木) 『Love Letter』から「Love Rain」まで―韓国のメディア・ポピュラー文化における「北海道のイメージ」の変容過程― 北海道大学
メディア・コミュニケーション研究院
東アジアメディア研究センター
准教授 金 成玟

講義概要

「北海道の国際化と東アジア」

講 師:北海道大学法学研究科教授/
     附属高等法政教育研究センター長  鈴木 賢

 新千歳空港からの国際定期便は現在,世界9都市に就航していますが,そのうち7路線までが東アジアによって占められています。いまや道内各地の温泉旅館やデパート,お土産店,家電量販店,はたまた大学のキャンパス内でも中国語やハングルが頻繁に飛び交います。

  本講義では,北海道にとっての国際化とは端的には東アジア各国とのつながりが深まることに他ならないということを人やモノの流れを通じて解説。また,東アジアの人たちから北海道がどう見られているかをご紹介し,北海道ブランド確立へのヒントを探っていきました。
  初日ということもあって,開講前の会場にはやや緊張した空気が漂っていましたが,講義が進むにつれて受講者の皆さんの表情も次第にほぐれ,熱心に耳を傾ける姿がとても印象的でした。

「中国から見た北海道」

講 師:北海道大学メディア・コミュニケーション研究院/
     教育学院多元文化教育論講座 教授  野澤 俊敬

 2009年に映画『狙った恋の落とし方(非誠勿擾)』が大ヒットしたことにより,中国の人々にとって北海道は是非とも訪れてみたい場所になり,観光客がどっと押し寄せるようになりました。
  しかし,実は30年前に,中国の人々はスクリーンの上で北海道に出会っていました。1978年に中国で高倉健主演の『君よ憤怒の河を渉れ(追捕)』が公開されると,社会現象ともいえるほどの人気を博しました。高倉健の主演作はその後も次々と中国の観客に熱狂的に受け入れられ,そのすべてが北海道を舞台とする映画でした。高倉健の人気にあやかるように北海道は中国の人々に好感をもたれるようになりました。
  一方,テレビドラマでは82年に公開された『燃えろ!アタック』が大ヒットし,その主人公「小鹿ジュン」が北海道出身の設定であったことも,北海道人気に拍車をかけました。
  では,その後の大きな社会状況の変化の中で,中国の人々の北海道に寄せる思いはどのように変わっていったのでしょうか---。

  主に映画を材料に,野崎教授ご自身の体験をまじえて語られた本講義では,中国映画に映し出された「中国人から見た北海道」への新鮮な驚きや,そんなあたたかい視線を寄せてくる中国の人々に対する親しみを感じられた方も多かったのではないでしょうか。
  当日は,中国からの留学生も参加するなど,「人と人との交流」を実感する2時間でした。

「台湾から見た北海道」

講 師:台北駐日経済文化代表処札幌分処
     処長 徐 瑞湖

 3000キロ近く,飛行機の飛行時間でおよそ4時間ほどの距離にある南国「台湾」と北国「北海道」。
  「意外に歴史的なつながりの深さや共通性のある島だと2009年8月に赴任してからやっと知りました」と語る徐処長。

近年来,台湾から北海道に来る観光客は常に外国人訪問客の1/3ないし半分の人数に達します。

 なぜ台湾の人々はこんなに北海道が好きなのか?
  北海道の魅力はどこにあるのか?

広大な大地,神秘の白,温泉天国,世界遺産など,台湾の人々から見た北海道の魅力について語ってくださいました。

  講義前半,植民地時代の台湾と新渡戸稲造をはじめとする北大出身者との深いつながりや,日本に寄せる台湾の人々の思いを熱く語られた徐処長のもとに,休憩時間中にも受講者の方が次々と訪れるなど,台湾がさらに身近に感じられた講義でした。

『Love Letter』から「Love Rain」まで
―韓国のメディア・ポピュラー文化における「北海道のイメージ」の変容過程―

講 師:北海道大学メディア・コミュニケーション研究院/
     東アジアメディア研究センター
     准教授  金 成玟(きむ・そんみん/KIM Sungmin)

 韓国で日本のポピュラー文化の輸入が正式に開始された1998年以降,商業的に成功した最初の映画は,小樽を舞台にした「Love Letter」でした。
  以降北海道のイメージは,日本を表象する重要な要素の一つとして,ドラマや映画,バラエティ番組など,韓国のメディア・ポピュラー文化のなかでさまざまな形で消費されてきました。チャン・グンソク主演の最新ドラマ「Love Rain」はその代表的な事例の一つと言えるでしょう。

  本講義では,韓国のメディア・ポピュラー文化における北海道のイメージの変容過程を検討するとともに,その意味がもつ限界と可能性を日韓の文化交流の水準で考えてみました。
  1998年の韓国の「日本大衆文化開放」以降の「日本のイメージ」「北海道のイメージ」の変遷を辿り,今後の相互理解には「国家や政治レベルでの動きに簡単に動員されない個々人の物語が必要」と語る金准教授。写真のとおり若い金准教授が語る「今の韓国」に,世代の離れた年配の受講者の方々も熱心に聞き入っていらっしゃいました。


最終講義の終了後には閉講式がおこなわれ,鈴木附属高等法政教育研究センター長から所定の回数(3回以上)を受講した52名に修了証書が授与されました