平成22年度法学研究科公開講座 政治の混迷 歴史の回顧

主催/北海道大学大学院法学研究科/附属高等法政教育研究センター
後援/札幌市教育委員会
(道民カレッジ連携講座「教養コース」)

―政治の混迷歴史の回顧―

 日本の政治が大きく揺らぎ続けています。長きにわたる自民党政権の凋落と政権交代、そしてその後の鳩山政権の迷走。人々からは、この困難な時代を切り開く政治的イニシアティブをどこに期待したらいいのかと、重いため息ばかりが聞こえてきます。東アジアの緊張関係も予断を許さず、またそのような状況とも関連して、子ども手当や高校の無償化をめぐっては、給付対象を国籍の有無で画定するべきという議論も拡がっています。
 2010年度の大学院法学研究科公開講座では、この政治の混迷のなかで歴史の教訓からどのように学ぶべきかを考えるため、主に政治や思想の歴史的な研究を進めるスタッフによる講義をおこないます。江戸期から明治に至るまで幅広く視野を広げながら日本の政治思想研究を牽引する眞壁仁准教授、「大東亜戦争」の起源についての大著を公刊したばかりの松浦正孝教授、文化的多元主義という視点からの政治思想研究を進める辻康夫教授に、高等研センター長の宮本を加えた講師陣で、困難な時代をどう受け止め、乗り越えるのか、そのヒントを探りたいと思います。

北海道大学大学院法学研究科附属高等法政教育研究センター長
宮本太郎

「明治社会の転換と現代」

講師:北海道大学大学院法学研究科附属高等法政策教育研究センター・准教授 眞壁仁

 いくつもの画期があったグローバル化論争のなかで、所謂「内地雑居」問題ほど、近代日本社会で長期間論じられたものはありません。横山源之助は1899(明治32)年7 月の日本国内における外国人の雑居開始を前にして、「あゝ内地雑居は、欧米人と平和の間に戦争を開くなり、特に産業の上に激しき戦争あるべし」と予言しました。限定された居留地を出て、西洋人が自由に移動し居住して、商売・経営などの諸活動を行うことができる。それは、日本社会にとって如何なる意味で脅威だったのでしょうか。

 この講義では、明治期の長いグローバル化論争を視野に収めつつ、とくに明治初年の明六社に集った福沢諭吉ら知識人たちの議論を中心に問題を考えます。高度な技術をもつ先進国の企業が、安価な労働力と資源をもとめて国境を越えた地域で「内地雑居」を要求し、経済進出しようとした場合、現地でいかなる反応が沸き起こるのか。明治日本社会の経験は、決して過去の問題ではないでしょう。

「アジアとの歴史認識問題をどう考えるか」

講師:北海道大学大学院公共政策学連携研究部・教授 松浦正孝

 鳩山民主党政権成立の前後から、「東アジア共同体」や「アジア主義」が脚光を浴びるようになってきました。確かに、通貨危機や疫病対策などの分野で、ASEANなどを中心に「アジア」を一つの単位とする動きが高まっています。しかし一方、中国・韓国・北朝鮮・日本など北東アジアでは、依然、安全保障・領土・資源・歴史認識問題などをめぐる緊張も強く残っています。

 「アジア主義」、「アジア共同体」といった理念は、日本と近隣諸国の間で共有できるようになるのでしょうか。それを考えるためには、まず、日本帝国で実際に構想されていた「アジア主義」の実像を知らなければなりません。

 この講義では、これまでの歴史とは少し切り口を変えて、新しく発見された史料などをもとに、当時の「アジア主義」が実際の政治に果たした役割を簡単に紹介し、今後のアジアの行く末について改めて考えるきっかけにしたいと思います。

「日本の政治と政治文化―KYを超えて」

講師:北海道大学大学院法学研究科附属高等法政策教育研究センター・教授 宮本太郎

 日本の政治は、これまで業界や地域に対する利益誘導を中心に進められてきました。人々は業界、会社、地域社会などにそれぞれの居場所を得て、こうした集団の利益を自分の利益と考えていました。ところが、日本的経営の解体や地域社会の変化などで、次第にこうした帰属関係が弱まり、人々はこうした集団を離れたいわば裸の個人として政治と向き合うようになっています。また、小泉政権の政治スタイルなどを見れば分かるように、政治も、次第に業界や地域を対象にした利益誘導から、個人の感情や利益に直接訴えかけるかたちになっています。それゆえに、日本政治は流動化し、「空気」の支配が強まっているようにも見えます。この講義では、日本的集団主義や日本型政治文化論の蓄積を振り返りながら、日本政治の変容を跡づけ、私たちが日本の政治文化とどう向き合うべきかを考えます。

「多文化主義の歴史と現在」

講師:北海道大学大学院公共政策学連携研究部・教授 辻康夫

 「さまざまな民族やエスニック集団が、互いのアイデンティティを尊重しつつ公平な条件で共存するためにはどうしたらよいのか」。これが「多文化主義」として扱われる問題である。

 今日、国境をこえた人の移動がますます活発になるなかで、この問題は一層切実なものになっている。この講義では、この問題が生成し、今日の状況にいたる過程を歴史的にふりかえり、多文化主義という考え方が生まれた経緯を明らかにしたい。具体的には、近代国家の形成の過程で、少数民族問題が不可避的に生じたこと、マイノリティへの処遇が「同化」から「差異の尊重」に変化したことを跡づける。次に、多文化主義の具体的な政策のありかたを紹介する。最後に、今日、多文化主義が直面する課題や批判にも言及しつつ、今後のありかたを考えたい。

開催概要

1. 開講日程(時間:午後6時30分~午後8時30分)

第1回 平成22年7月22日(木) 「明治社会の転換と現代」
講師:北海道大学大学院法学研究科附属高等法政策教育研究センター・准教授 眞壁仁

第2回 平成22年7月29日(木) 「アジアとの歴史認識問題をどう考えるか」
講師:北海道大学大学院公共政策学連携研究部・教授 松浦正孝

第3回 平成22年8月5日(木) 「日本の政治と政治文化―KYを超えて」
講師:北海道大学大学院法学研究科附属高等法政策教育研究センター・教授 宮本太郎

第4回 平成22年8月19日(木) 「多文化主義の歴史と現在」
講師:北海道大学大学院公共政策学連携研究部・教授 辻康夫

2. 実施会場

北海道大学人文・社会科学総合教育研究棟 W202室
(札幌市北区北9条西7丁目)

3. 受講資格

満18歳以上の方であればどなたでも受講できます。

4. 定員

50名

5. 申込要領

(ア)申込期間

平成22年6月22日(火)から平成22年7月9日(金)まで(土曜日・日曜日及ぴ祝日を除く)
  午前9時から午後5時00分
なお、受講者数に限りがありますので、申込期間内であっても定員に達した場合には申込を締切る場合があります。

(イ)申込場所

札幌市北区北9条西7丁目
北海道大学法学研究科・法学部(庶務担当)

(ウ)申込方法

受講申込書(コピー可)に必要事項を記入のうえ、直接または郵送にてお申し込みください。
(受講者証は所定の振込用紙のE票(郵便振替払込受付証明書・北海道大学受付証明書)と引換えに公開講座初日にお渡しします。)

※受講申込書で得られた個人情報は、個人情報保護法に則り、本公開講座の運営及び
関連統計業務以外の目的には一切使用いたしません。

6. 受講料

(ア)金額

3,000円

(イ)納付方法

受講申込後に郵送します所定の振込用紙ご利用の上、銀行または郵便局によりお振込み願います。お振込みは必ず窓口で行い、E票を受領してください。(E票は公開講座初日に受講者証と引換えいたしますので、ATM(現金自動預払機)は利用しないでください)
なお、納入した受講料はお返しできません。

7. 修了証書

3回以上受講した方には、修了証書を授与します。

8. その他

(ア)この講座に関するお問い合わせ先

北海道大学法学研究科・法学部(庶務担当)
〒060-0809 札幌市北区北9条西7丁目 電話011-706-3119(直通)

(イ)申込場所

申込場所および実施会場の略図は別図のとおりです。(車での来学はご遠慮願います)

(ウ)備考

道民カレッジに入学されている方で、本講座を受講し、修了証書の交付を受けた方は、道民カレッジの単位を取得することができます。(本講座:8単位)

●申込場所及び実施会場案内図

申込場所・実施会場
地下鉄南北線「北12条駅」下車徒歩10分(約600m)
中央バス「北大正門前」下車徒歩5分(約300m)
JR札幌駅「北口」より徒歩13分(約800m)
※車での来学はご遠慮願います。