J-mail No.29 2009 Winter

CONTENTS・・・・・・・・・・・・Winter,2009
●J-Review:雨宮処凛
●Juris Report
●Research Update:中川寛子/吉田 徹
●Art&Culture:山崎幹根/桑原朝子
●From Abroad:水野浩二
●Information

 

J-Review

底割れする日本と人権状況 いま何が必要か?
雨宮処凛さんに聞く

02

 湯浅誠さん、雨宮処凛さんを招いての昨年12月のセンター連続シンポジウム「どうする? 21世紀日本の貧困と格差」は、たいへんな盛況ぶりで大きな反響がありました。シンポジウムの内容は岩波ブックレットとして近日公刊の予定です。その後の動きなどをふまえて雨宮処凛さんに聞きました。聞き手は宮本センター長です。
 
宮本: 昨年秋以来の動向についてどうとらえておられますか。

雨宮: 報道もされているとおり、製造業で契約の途中で解雇された派遣社員が増大しています。蒲田で1時間100円という日本でいちばん安いネットカフェがあるのですが、昨年末など200の仕切が超満員の状態でした。そのネットカフェの隣に12時間100円というこれもとても安いコインロッカーがあって、またその隣には自販機でパンツとシャツと靴下のセットが300円で売っている。家がない人のマーケットがもう完全に成立しているんです。家のあるひとがたんすの引き出しを開けるのはただですよね。でも家がないとコインロッカーを使わないとならない。ホームレスはけっこうお金がかかることをふまえた市場です。年越し派遣村は衝撃でした。日本に「難民キャンプ」のような光景が広がり、そこに家も所持金もない人たちが500人も集まったことは、この国の「崩壊」をまざまざと感じるものでした。

宮本: 政府も霞ヶ関も「緊急雇用対策」のようなものを次々に打ち出しています。どんなご感想をおもちですか。あるいは今もっとも求められているものは何でしょう。

雨宮: 今もっとも必要としているのは「住む場所」です。3月末にまだ第2弾の派遣切りが予想され、それは年末以上の規模になるとも言われているので、厚生労働省には「シェルター」を作るよう、要求しています。「雇用対策」以前に、住む場所がないと就職活動もできない上、仕事も日雇い派遣くらいに限られてしまいます。とにかく最低限住所がある、屋根がある、というのが「社会参加」の条件だと思うので、仕事の前に家、そして所持金のない人には、就職活動のための資金と生活費がもっとも必要なものだと思います。

宮本: 講演のなかではインディーズ系労働運動のDVDを見せていただきました。こうした新しい労働運動・社会運動はこれからどうなるべきなのでしょう。

雨宮: インディーズ系労組の運動は「労働/生存」運動とも呼ばれる通り、生存全般に対する運動でもあります。現在は全国インディーズ系メーデーに向け、準備中です。今心配しているのは、派遣切り問題などを通して貧困への理解は進んだものの「働く意欲がある人だけ救おう」という方向に回収されることです。意欲をすでに失ってしまった人もいれば、そもそも「意欲」そのものを誰がどう測定するのか。今後「意欲」による選別が進んでいくと思います。それに抗うことがひとつの大きなテーマになると思います。また、メーデーではヨーロッパ、アジアなど海外プレカリアート運動との連携も進めています。既存の労組や政党とも連携する時は連携し、かつ、世界の貧乏人と連帯する、というイメージです。

宮本: 雨宮さんは北海道ご出身です。北海道についての思いなど一言。

雨宮: 今派遣切りに遭ったり失業している人の中には、北海道出身の人も多いです。製造業派遣では、北海道、沖縄、東北の人が多いというのが共通の現象です。最低賃金が低く、仕事もあまりない地域の人々が派遣会社のカモにされている現実があります。愛知などで切られて寮を追い出され、焦って就職を探しているうちに所持金が尽き、地元に帰るお金もない……というパターンが多いので、例えば各自治体の出張相談所などがあって、北海道に帰るお金が支給される、という仕組みがあれば、ホームレス化しないのに……ということが沢山あります。

01

 

Juris Report

センターシンポジウム「どうする? 21世紀日本の貧困と格差」
シリーズ「21世紀市民社会への可能性」
「反・貧困と市民社会」/「プレカリアートの乱? 21世紀日本の若者と貧困」

2008年12月12日(金)「反・貧困と市民社会」

パネリスト:湯浅誠●NPO法人自立生活サポートセンターもやい事務局長
   山口二郎●北海道大学教授
   宮本太郎●高等法政教育研究センター長
   中島岳志●北海道大学准教授
共催:北海道大学公共政策大学院・国際政治経済政策事例研究
   北大GCOEプログラム「多元分散型統御を目指す新世代法政策学」
   北大法学研究科法学会

03

2008年12月19日(金) 「プレカリアートの乱? 21世紀日本の若者と貧困」

パネリスト:雨宮処凛●作家
   山口二郎●北海道大学教授
   宮本太郎●高等法政教育研究センター長
   中島岳志●北海道大学准教授
共催:北海道大学公共政策大学院・国際政治経済政策事例研究
   北大GCOEプログラム「多元分散型統御を目指す新世代法政策学」

04

センターシンポジウム「グローバル化のなかの福祉国家とエスニシティ」
シリーズ「多元社会へのインクルージョン」
「変貌する日独の福祉国家と福祉政治」
「介護と社会保障のグローバル化? ―福祉社会と外国人労働力―」

2008年11月21日(金)  「変貌する日独の福祉国家と福祉政治」

報告:Reimut Zohlnhöfer●バムベルグ大学教授
討論:坪郷 實●早稲田大学教授
   安井宏樹●神戸大学准教授
司会:宮本太郎●高等法政教育研究センター長 
共催:北海道大学公共政策大学院・国際政治経済政策事例研究
   文部科学省科学研究費基盤研究(A)
   「脱「日独型レジーム」の比較政治分析」

ライムート・ツォーレンヘッファー教授は、近年のドイツ社会保障政策の展開について、基本的には「労働なき福祉国家」からの脱却を課題とするものとして特徴づけた。すなわち、雇用主の雇用関連拠出の大きさ故に雇用が縮小していく状況に対処するために、税の引き上げや支出の切り下げという不人気な政策をいかに実現するかが問われたのである。そして、コール政権、シュレーダー政権、メルケル政権を中心に、それぞれの時期の政策展開を、拒否権プレイヤーの配置と労働市場の動向という変数を重視しながら説明した。坪郷實氏(早稲田大学)、安井宏樹氏(神戸大学)のコメントを得て議論が深化した。

05

2008年11月22日(土)「介護と社会保障のグローバル化? ―福祉社会と外国人労働力―」

報告:遠藤 乾●北海道大学教授
   安里和晃●京都大学特定准教授
   久保山亮●ビーレフェルト大学
   宮本太郎●高等法政教育研究センター長
共催:北海道大学公共政策大学院・国際政治経済政策事例研究
   北大グローバルCOEプログラム
   「多元分散型統御を目指す新世代法政策学」

 まず、遠藤教授は少子高齢化が進む現代社会において、東アジア諸国を中心にケア労働の担い手の女性化・国際化が進み、外国人労働者の本国への海外送金を媒介とした送り出し国の経済戦略から国際政治経済学的な重要性を指摘し、介護の女性化・国際化が国際政治上の重要な問題になりうることを示唆した。安里特定准教授はインタビューやリサーチによって得られた豊富なデータを用いながら、アジアにおける高齢化問題の実態を明らかにした。現在の外国人労働者が置かれている法的に不利な地位について注意する必要性を説いた。そして、久保山氏はドイツの事例を手がかりに、短期ローテーション型の労働移動が拡大する現在における日本の移民政策のあり方について検討した。宮本教授は福祉国家がグローバルな階級・ジェンダー・エスニシティという三つの社会関係・階級関係に制度化されてきたことを論じ、その関係性が大きく変容しつつあることを明らかにした。今回のシンポジウムを通じて、グローバル化の進展に伴う福祉国家の変容という新たな局面において、外国人労働者の果たす役割の重要性が確認され、現在抱えている諸課題を克服し、より公正な新しい連帯を構築していく必要性を改めて認識するよい機会となった。

06

アイヌ・先住民研究センター冬季シンポジウム 「アイヌ研究の現在と未来:第2部」

2008年12月6日(土)

講演:佐々木利和●国立民族学博物館教授
   佐々木雅寿●北大法学研究科教授、アイヌ・先住民研究センター
   百々幸雄●北海道文教大学教授
主催:北大アイヌ・先住民研究センター 
後援:社団法人北海道ウタリ協会
   北海道大学法学研究科高等法政教育研究センター
   北大文学研究科北方研究教育センター

 本シンポジウムは、北大アイヌ・先住民研究センターの主催により、これまでのアイヌ民族に関する研究の歴史を振り返りながら、将来のあるべき研究の姿を展望することを目的に開催された。本シポジウムは、夏期におこなわれた、「歴史学」、「考古学」、「言語学」に焦点を当てたシンポジウム「アイヌ研究の現在と未来:第1部」の続編と位置づけられ、今回は「文化人類学」、「法律学・政治学」、「形質人類学」についての活発な議論が展開された。アイヌ民族からのコメントも充実しており、研究の現代的意義を深く考えさせられるものであった。これら一連のシンポジウムにより、まとまったかたちでアイヌ研究の現在と未来を市民とともに共有できたことは、アイヌ民族に関わる課題が「研究」という枠では限定できない現在において、大きな社会的意義があったと思われる。

07

国際ワークショップ ● シリーズ「多元社会へのインクルージョン」
「レジーム変容と地域ガバナンス 社会的包摂の新しいデザイン」

2008年12月10日(水)~11日(木)

報告:スティーブン・オズボーン●エジンバラ大学教授
   塚本一郎●明治大学教授
   宮本太郎●北海道大学教授
   マリリン・テイラー●西イングランド大学教授
   藤井敦史●立教大学准教授
   山崎幹根●北海道大学教授
   ジェニー・ハロウ●キャス・ビジネス・スクール教授
   トビアス・ユング●エジンバラ大学研究員
   須田木綿子●東洋大学教授
主催:文部科学省科学研究費基盤研究(A)
   「脱「日独型レジーム」の比較政治分析」 
共催:社会政策学会国際交流委員会

 イギリスから4人、日本から5人の研究者が集まり、福祉レジームが変容していくなかでの、社会的企業(NPO、協同組合、ミッション企業など)の役割、行政との新しい関係のあり方などについて多角的に議論がおこなわれた。スティーブン・オズボーン教授をはじめイギリス側の報告は、社会的企業と行政の関係がより相互的なガバナンスに転換していく可能性や、そのための課題について論じた。また、日本側からは、日本における社会的企業の形成と介護保険などにおけるその動向が報告された。会場にはスウェーデンのヴィクトール・ペストフ教授をはじめ、この分野での内外の有力な研究者も数多く集まり、活発な意見交換があった。

08

公開シンポジウム
「ポスト新自由主義の世界秩序―2009年の政治経済を展望する―」

2009年1月7日(水)

パネリスト:アンドリュー・デウィット●立教大学教授
   高橋伸彰●立命館大学教授
   杉田敦●法政大学教授
   小川有美●立教大学教授
   宇野重規●東京大学准教授
司会:山口二郎●高等法政教育研究センター教授 
主催:文科省科学研究費基盤研究(S)
   「市民社会民主主義の理念と政策に関する総合的考察」 
共催:(社)生活経済政策研究所

 1月7日、東京の都市センターにおいて、本学山口二郎教授がコーディネーターを務め、アンドリュー・デウィット、高橋伸彰、杉田敦、小川有美、宇野重規の各氏をパネリストに迎え、シンポジウム「ポスト新自由主義の世界秩序」を開催した。

 2008年秋以降の世界的な経済危機、アメリカにおけるオバマ新大統領の登場という政治経済の大きな変化を受け、日本においてどのような政治選択を行うべきか、どのような政策的選択肢があるかについて、政治学、経済学の両面から活発な議論を行った。安全、安心を回復するために、単に過去に回帰するのではなく、環境などの新しい政策課題に積極的に取り組む中で、21世紀の新しい福祉国家や社会民主主義の展開を図ることが、全体の議論の中で強調された。

09

センター研究会 ● シリーズ「東アジアのリスク社会と市民連携」
「中国NPOの現状・課題・展望」

2009年1月17日(土)

報告:王 名●中国 清華大学公共管理学院教授、NGO研究所所長
司会:鈴木賢●高等法政教育研究センター教授
共催:北大グローバルCOEプログラム「多元分散型統御を目指す新世代法政策学」
   文部科学省科学研究費基盤研究(B)
   「中国における民間セクターをめぐる法と政治」

 王名氏の報告は、中国の非営利組織に関する歴史的展開の確認、非営利組織の現状の紹介、非営利組織を取り巻く課題の提示、今後の非営利組織の展望の検討を柱に行われた。その後、フロアからの質疑をもとに、前半の議論をさらに深めた。この研究会を通して、現代の中国において、非営利組織などの社会集団が大きな役割を果たしている現状と直面している課題、そして今後の発展可能性について大きく理解が深まると同時に、「政治」における市民社会の役割の重要性を認識するよい機会となった。

10

 

Research Update

クライム・サスペンス!?

中川寛子●経済法(競争法) 准教授

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同じ競争法の中でも、自分の主な研究関心分野はおどろおどろしい言葉にあふれている。「排除」「略奪」「拒絶」「圧搾」……なんだかクライム・サスペンス小説のようだ(あ、だからこの手の小説好きなのか~)。どれも、ものすごくワルそうである。ところが、実はこれを禁ずるには、「正当な」競争行動と慎重に区別しなければならないので、各国ともソロリソロリと規制基準を探っている。「競争」とは常に他者を「排除」して勝ち残っていくことだから、積極的に競争することは奨励されるが、やりすぎはダメ。ルールを守って競争しなさい、である。そこで「競争秩序」という言葉が出てくる。だが、何が「秩序ある」競争なのか?それによって、積極的な競争なのか「略奪的」競争になってしまっているのか、その判断は直接に影響を受ける。グローバル・スタンダードとは遠く、望ましいルールは何か、国や地域、社会的背景によって大きな違いがありうることがよく見える分野でもある。では日本はどうするのか、いつも考えさせられる。気がつくと、自分と向き合うことにつながっていく……ちょっと「主人公」っぽくキマった?(笑)

 

才能のピークではない

吉田 徹●ヨーロッパ政治・比較政治 准教授

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 最近、博士課程で勉強したフランス・ミッテラン大統領と社会党についての論文を『ミッテラン社会党の転換―社会主義から欧州統合へ』(法政大学出版局)として出版をしました。不出来な点があることは承知しつつも、これで2000年から関心を寄せていた問題意識に一定度のけりを付けることができました。欧州統合とナショナルなものという研究は継続しますが、目下のところ短期的には①日本の90年代以降の政治改革論を現代デモクラシー論とつなげること(新書として刊行)、中期的には②近年指摘される欧州帝国論をモダニティの枠組みの中で再解釈すること(千葉眞編『帝国の政治学』として刊行)、長期的には③18世紀末の地中海秩序をフランスの周縁から再解釈すること、の3つに傾注しています。
 最近とある北大政治スタッフOBから「お前は今才能のピークにある」と断定されてしまいました。比較政治、政治理論、歴史と前線が拡大するばかりですが、やれるところまでやっていこうという気持ちです。

 

Art&Culture

映画『この自由な世界で(It's A Free World)』2007年

北大法学研究科教授  山崎幹根

 いままでもイギリスの労働者やマイノリティを扱った映画を作り続けてきた巨匠ケン・ローチ監督の最新作。舞台は現在のロンドン。シングルマザーの主人公アンジーは生活の糧を求めて自分で職業紹介会社を設立し、外国人労働者のあっせんを立ち上げる。はじめは職にあぶれた外国人家族を自宅に招き入れるなど、やさしい心をもっていたアンジーだが、事業を拡大するにつれて、次第に不法移民のあっせん、給料のピンハネに手を染めるように……。グローバリゼーション下の「自由な世界」のなかで、弱い立場の人間が、さらに弱い立場の人間を追い詰めてゆく不条理とは何なのか。日本でも最近、ようやくとりあげられるようになってきた外国人労働者の雇用問題についても多くのことを考えさせられる。今年4月にDVD発売予定。

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辻 邦生『嵯峨野明月記』(中公文庫、1990年)

北大法学研究科准教授  桑原 朝子

 

17世紀初頭、京都嵯峨において、開版者角倉素庵の創意により、寛永の三筆たる本阿弥光悦の手になる版下と、絵師俵屋宗達の意匠が凝らされた雲母刷りの料紙とを組み合わせた、輝くように美しい版本が刊行された。この華麗な版本こそ、日本書物史上最も芸術的価値が高いと評される「嵯峨本」であり、本書は、その作成に情熱を傾けた三人の「声」が織り成す物語である。転変の激しい戦乱の時代を生きる三人は、いかなる世にあっても輝きを失わない不易の美を等しく渇望した。それぞれの個性と才能を存分に活かしつつ、不易の美への思いを、典雅な王朝物語の世界を体現する「嵯峨本」に結実させようと全力を尽くす彼らの姿は、殺伐とした時代背景とは対照的に清々しい。芸術は、現実逃避のためではなく、どんな現実をも豊かに生き抜くためにこそ欠かせない──改めてそう思わせてくれる一冊である。

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From Abroad

「ドイツと地方新聞」

滞在地 マックス・プランク欧州法史研究所(ドイツ・フランクフルト)
水野 浩二(北大法学研究科准教授 法史学)

 もとから旅好きのわたしは、日本国内であちこちでかけるたびに、その地方の新聞を買って読むのを楽しみにしてきた。そんな好事家から見た、ドイツの地方新聞についてちょっと書いてみたい。
 日本だと全国紙と地方紙、地方紙をブロック紙・県紙・地域紙と分けるのが普通だろうが、この区分はドイツには当てはまらない。フランクフルター・アルゲマイネやヴェルトといった、日本でも名の知られた高級紙は解説報道を中心としている点で日本の全国紙とは大きく異なる。全国どこでも普通に売っている(そして日本の大学図書館にも入っている)高級紙はさておき、ドイツの地方新聞とはどんなものかというと……。
 戦時中の「一県一紙体制」を受け継いでいる日本とは異なり、ドイツでは人口が二、三万あるちょっとした町なら、まず新聞社があるといってよい。地方新聞の多くはこのタイプで、日本の地域紙(例えば室蘭や帯広にあるようなもの)に体裁はよく似ている。部数はせいぜい数万で、一つのメディア企業が題字と地域面だけ差し替えて幾つもの新聞を出しているケースも少なくない。
 人口十万以上の主要都市ともなると、地方新聞でも内外の政治・経済や論説にそれなりにスペースを割いた、準高級紙と呼ぶべきものが多いようだ。日本の全国紙・県紙につくりが一番近いのはこのタイプだろうし、お硬い政論から身近なマチの出来事まで一紙でカバーできるからわたしは好きだ。このレベルになるとその地域を離れ、隣の州果ては全国の大きな駅の売店でも普通に売られているから、街の新聞スタンドにはやたらたくさんの種類の新聞がならべられていて、見ているだけでたのしい。
 値段は日本よりはやや高めで、高級紙だと1ユーロ60、地方新聞だと1ユーロ20ぐらいが相場だろうか(最近の円高でだいぶ安く感じるようにはなったが)。広告が日本と比べ少ないせいもあろう。旧東の地域だとかなり安い(1ユーロしない)が、その代わり硬めの内容はやや手薄なようだ。
 高級紙が事実から一歩身を離し、ある意味抽象的なレベルで世の事象を論じているのに比べ、地方新聞は同じテーマを市井の人々の視点から取り上げているように思う。これはべつに対立するものではなく、鳥の視点と虫の視点のようなもので、両方とも重要なのだろう。「日本には高級紙がない」ことを批判する人もいるだろうけれど、適度に硬軟取り混ぜた紙面を圧倒的大多数の人々が等しく目にし、社会のさまざまな問題についてゆるやかな共通認識が形成されているとすれば、それはわが国の大きな強み(だった)と思うが、いかがだろうか。

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Information

  • 3月27日(金)京都大学名誉教授・学士院会員・元最高裁判事の奥田昌道先生をお迎えして研究会「民法と宗教・学者的良心 -奥田民法学の50余年」を開催します。詳細は高等研HPをご覧ください。
  • 昨年7月18日開催の公開セミナーをもとにした、ACADEMIA JURIS BOOKLET No.27「市民社会と社会的金融 -ヨーロッパと日本のNPO支援システム-」が発刊されました。詳細は高等研HPのブックレットのページをご覧ください。

 

Staff Room●Cafe Politique

M a s t e r● センター長の一年目、オンザジョブ・トレーニングのつもりであったが、とくに秋以降、ほとんど毎週の研究会、シンポジウムのスケジュールに目をまわしているうちに一年が終わったという実感。スタッフを初め、皆さんのご協力に感謝します。

G a r s o n● 昨秋から目白押しの行事報告などで今号のJ-mailは内容ぎっしり盛りだくさん。引き替えに私の頭の中は真っ白に。さぁ~て、これから何で、どんな楽しいことで頭の中を埋めていこうかな。

 

Hokkaido University ●The Advanced Institute for Law and Politics

J-mail●第29号
発行日●2009年2月28日
発行●法学研究科附属高等法政教育研究センター[略称:高等研]

〒060・0809 ●北海道札幌市北区北9条西7丁目
Phone/Fax●011・706・4005
E-mail●jcenter@juris.hokudai.ac.jp
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【J-Center】