J-mail No.33 2010 Summer

CONTENTS・・・・・・・・・・・・Winter,2012
●J-Review:小磯修二
●Juris Report
●Research Update:嶋 拓哉/曽野裕夫
●Art&Culture:宮脇 淳
●Center Network:大門正彦
●Information

 

J-Review

ポスト土建国家のビジョンは?  小磯釧路公立大学長に聞く

 GDP比でこの15年間半減してきた公共事業予算は、一般歳出では現政権のもとでさらに18%削減されました。日本と北海道はすでにポスト土建国家というべき局面にあります。釧路公立大学学長でこの問題に詳しい小磯修二教授に伺いました。
 
宮本: 小磯先生は、北海道開発庁、国土交通省におられ、現在も国の審議会などで活発に発言されている一方で、釧路公立大学では、社会保障や雇用も含めた地域再生のプロジェクトに取り組まれています。こうした観点から、まず北海道における公共事業の現状についてどうお考えでしょう?

小磯: 北海道では、近代国家になって以降、長期にわたって安定的に社会資本整備が進められてきました。その背景には総合的な長期計画とそれを公共投資面で担保する、拓殖費や一括計上制度などの国による開拓、開発システムがありました。一方で、戦後に制度構築された新幹線や有料高速道路などの新たな高速旅客交通整備については北海道開発システムの外側に置かれたことから、極端に整備が遅れるという脆弱な面があります。地域構造としては、道央圏へ重点投資されたことによる、札幌一極集中、地方圏との格差拡大という問題を抱えています。
 また、経済面では、公共事業を受注する建設産業群が地域産業、地域雇用を支える構造となり、公共事業のフローに依存する経済構造からの脱却、特に建設業が担う地域雇用を今後北海道内でどのように受けとめていくかが大きな課題となっています。

宮本: 現政権は「コンクリートから人へ」を掲げてきました。こうした政策のあり方について、どうお考えでしょう。

小磯: 地域の活性化を目指す地域政策の立場からは、「人を単位にした給付政策」は結果的に大都市集積地域への支出のシェアーを大きく高めることになり、経済波及面での地域間格差が一層拡大していくことが懸念されます。コンクリートの「無駄を切る」基準や考え方については、受益地域の人々の納得が得られる説明とプロセスが大切です。そこでは既に整備の恩恵を受けている多数の人々の「無駄」の声にどう向き合うかが問われます。人への給付による需要創出の成功例は少ないようです。安定的な需要を生み出すためには、幅広い環境整備政策を有機的に結びつけていく高度な政策手法が求められます。

宮本: 公共事業はこれからどのようにあるべきとお考えでしょう。どのような事例に注目されていますか?

小磯: 公共事業政策の特性は、タテわりシステムであることです。道路、鉄道、港湾、漁港、空港、河川、土地改良などどれをとっても建設、管理、地元負担・関与など制度はバラバラです。総合的な公共投資政策がないのです。以前は、総合的な国土計画、地域開発計画がその機能を担っていましたが、今はその役割は十分果たしていません。これからは、地域が主体的に総合的な公共投資のあり方について政策構築していくことが求められます。そこでは、施策の優先化、重点化がポイントです。何を切るかという政策判断は難しいものです。2008年に北海道が社会資本整備の重点化方針を策定する際に、私が委員長となったので、思い切って住民のニーズを軸に事業優先度を決めるという手法に挑戦したことがあります。各部の反対等で十分な重点化は出来ませんでしたが、全国では初の試みでした。

宮本: 公共事業再生のために、政治行政、業界、市民が果たすべき役割についてお聞かせください。

小磯: 社会資本整備は「器づくり」です。おいしい料理や、美しい花が盛られることで、器はその機能を発揮し、輝きを増していきます。北海道の発展に向けての長期的なビジョン、シナリオを行政、経済界、政治が連携して主体的に発信していくことが、北海道における公共事業再生にとって重要な取り組みです。北海道には他地域に先駆けて、国、自治体、民間が一体となって総合的な計画により長期的な開発政策、プロジェクトを展開していった実績と伝統があります。あらためて足元の経験を見つめなおすことが大切でしょう。

宮本: どうもありがとうございました。

01 小磯修二
釧路公立大学教授、地域経済研究センター長。北海道開発庁等を経て、1999年6月より現職。
専門は地域開発政策、地域経済。

 

Juris Report

北大公共政策大学院主催 大学間協定校交流事業
「フランスからみた政権交代」(Change of Government in Japan:French Perspective)

2010年3月30日(火)

講師:Jean-Marie Bouissou●パリ政治学院
   Régine Serra●パリ政治学院
討論者:山口二郎●北大法学研究科
    吉田 徹●北大法学研究科
司会:鈴木一人●北大公共政策大学院 
主催:北大公共政策大学院 
共催:北大法学研究科附属高等法政教育研究センター

 平成22年3月30日、パリ政治学院からジャン=マリ・ブイスー講師とレジーヌ・セラ研究員を迎え、政権交代をフランスからの視点で分析した。

 ブイスー氏はバブル経済崩壊後の日本社会の変化が新たな政治を求め、その社会変化に乗る形で「バブル政治家」が誕生してきたことで、日本政治の変化が生まれてきた、と論じた。「バブル政治家」とは、メディアへのアピールを得意とし、世論を動かし、「キャラが立っている」政治家ではあるが、変化を求める一方で持続的な政治プログラムを持たない政治家のことを指す。またセラ氏は民主党政権の外交・安保政策は「背骨のない政策」であるが、対アジア、対中国外交では進展が見られるという期待を示した。

 その後、山口二郎教授から、目標と政策が乖離していることに問題があるとし、それが国内外に不満と不安を生み出していると指摘した。吉田徹准教授からは、日本は民族的に社会が分断されているがゆえにコンセンサス政治が行われているスイスとは異なっているとの指摘がなされた。

02

海外教育交流支援事業
「2010年度ウィスコンシン大学ロースクール・北海道大学法学研究科共同セミナー
―食品安全規制の日米比較―」

2010年5月18日(火) ~25日(火)

主催:法学研究科(海外教育交流支援事業)
共催:附属高等法政教育研究センター

 ウィスコンシン大学ロー・スクールと本研究科との大学院共同セミナー「食品安全規制の日米比較」は、5月18日から1週間にわたって開催された。ウィスコンシンからはステファニー・タイ助教授(環境法)と学生8名が来札し、本研究科からも会澤恒准教授と9名の学生が参加して、タイ・会澤両教授の講義や通訳・解説などを軸に、グループ・ディスカッションを交えながら授業が進められた。またセミナーの終わりには、北海道庁を訪問して食品安全行政の実務を見聞する機会もあった。授業は基本的に英語で行われたが、本研究科から参加した学生も積極的に加わり、また夕食会やパーティなどを通じても大いに交流を深めた。今回の共同セミナーは1999 年に続いて二度目のものであった。この間ウィスコンシンとは教員の交流や留学生派遣などを通じて学術交流の実を上げて来ているが、共同セミナーとう形は久しぶりであり、教育面での交流をさらに深めることができた。ウィスコンシン側もこの成果には満足しており、また、近年の大学院GPにおいても東アジアの諸大学との共同セミナーは大きな成果を上げたところであるので、今後もこのような試みを継続してゆくことが望まれようだ。

03

公共政策大学院・高等法政教育研究センター共催講演会
「雇用危機にNPOは何ができるか?」

2010年6月15日(火)

講師:池本修悟●NPO法人NPO事業サポートセンター専務理事
共催:北海道大学公共政策大学院・福祉労働政策事例研究
北海道大学大学院法学研究科高等法政教育研究センター

雇用危機を突破するために、NPOの役割が大きいことが指摘されるが、現実にはその雇用吸収能力は限られている。NPOが雇用政策の主軸を担うためには、何が求められるのか。この研究会では、NPOマネジメントの新世代を代表する一人であるNPO事業サポートセンター専務理事の池本修悟氏を招き、NPO雇用の最新事情を伺った。

 池本氏はまず、自らがNPO経営にかかわるようになったパーソナルヒストリーと関わらせながら、NPOマネジメントの新世代の形成について語った。また、「新しい公共」を掲げる民主党政権の政策動向を紹介しながら、こうしたプロジェクトへのNPOサイドの対応、政府とNPOの連携をめぐる問題点と課題について、さまざまな具体的ケースに言及しながら説明した。さらに、介護保険制度の枠組みを例としてあげながら、NPO雇用を拡充していくためのアイデアを紹介した。ケアマネージャーが多大な時間を割くことになっているペーパーワーク業務の切り分けなどが考えられるとされた。

 会場には札幌のNPO関係者もかけつけ、議論に参加した。

 

 講演会●「民主党政権下の政策過程」

 2009年7月17日(金)

講師:橘 幸信●衆議院法制局第二部長
コメンテーター:山口二郎●北海道大学法学研究科教授
コーディネーター:宮本太郎●北海道大学法学研究科教授 
主催:文部科学省科学研究費基盤研究(A)
   「日本型福祉・雇用レジームの転換をめぐる集団政治分析」 
共催:北海道大学大学院法学研究科高等法政教育研究センター

 政権交代によって政策過程を主導してきた官僚の政治主導の政策過程が掲げられることになった。それでは法と政策の形成過程には、実際にはどのような変化が現れつつあるのか。この研究会では、衆議院法制局で自民党政権と民主党政権の政策過程をともにつぶさに観察してきた橘幸信氏を招き、変化の中身について話を聞いた。民主党の政策調査会の位置づけや、議員立法をめぐって、内閣の優位を高めようとする動きとこれに対抗する動きが拮抗している状況について報道記事などを引きながら解説があった。これを受けて、山口二郎教授がコメントをおこない討論に移った。会場からはいわゆる小沢支配の意味について、政策目的の設定と政策過程のあり方の関係についてなど、広い論点について議論がおこなわれた。議論には実定法専攻の教員も参加し、この問題が法学研究科全体のテーマであることを伺わせた。

04

Research Update

「当事者自治の原則」と「国家的経済秩序」との関係

嶋 拓哉●国際私法 教授

05

国際取引では、当事者による準拠法選択が認められていますが、他方で、国家は自国の経済秩序維持のための法規を有しており、両者の適用関係を如何に整理すべきかが問題となります。わが国との牽連性が強い取引について当事者が他国法を準拠法として指定した場合に、わが国の法規範が一切顧みられないとすれば、それは、わが国経済秩序の貫徹が私人の意思により恣意的に妨げられることを意味します。私人が当事者自治の原則を楯に国家経済秩序から完全に離脱することは許されず、やはり何らかの国家介入の余地を認める必要があるのではないでしょうか。そうすると次に、両者の均衡点をどこに求めるかという問題がクローズアップされることになると思います。国家経済秩序法規といっても、国家的利害の実現を図る中核的なものもあれば、取引当事者の利害調整を目的とするものもあり、その公益性にはある程度の幅が存在します。国家経済秩序の維持に過大な関心を置く余り、これら法規総てに介入的性格を認めれば、それは私人の経済活動を阻害するリスクを孕むことになるでしょう。これから当面の間、国際化社会における私人の活動と国家秩序に基づく制約との均衡をいかに確保すべきかという問題に取り組んでみたいと思っています。

共通私法

曽野裕夫●民法 教授

06

 国際商取引における《共通私法》の生成過程とその規範内容の分析というテーマで研究を行っています。《共通私法》とは,国際機関などがトップダウンで作成する私法統一条約と,商人間の取引においてボトムアップで自生する慣習を両極として多層的に生成し,必ずしも国家法ではないためにその正統性が問われるにもかかわらず,国境を越えて適用されている私法規範です。

 そのような《共通私法》のなかでも,現在は,ウィーン売買条約(CISG)として知られる私法統一条約の研究に注力しています(偏り過ぎだとの評もある)。日本は,ようやく2008年にその71番目の締約国になったところですが,CISG は,国際物品売買契約(貿易取引)に適用される条約として,1988年に発効して以来,世界貿易における《共通私法》の基軸としての地位を獲得し,後続の非国家的な《共通私法》の生成を誘発してきました。また,各国の民法改正(現在の日本の債権法改正も然り)にも影響を与えています。CISGにみられる契約法規範の原理と体系の探求は,世界の研究者が追究している共通課題でもあるのです。

Art&Cultur

星占いと為替

北大法学研究科教授  宮脇 淳

 朝夕のテレビでは、星占いなど運勢が紹介される。良い話だけ聞いておくのが常道。しかし、星占いは世界経済を動かす力も秘めている。30 代に大手銀行系シンクタンクで働いていた頃を思い出す。為替相場は何で決まるか。最後は占星術。取引に向けた会議では、経済動向などを精査し最後は星の位置の専門家の判断である。世界には為替に影響を与える占星術が複数あるらしい。人間は、自分で説明できないことを自然現象に委ねる。合理性だけでは説明できない非合理な動き、それが人間らしさを生みだす。激しいビジネス社会の中で驚きと同時になんとなく微笑みたくなったことを覚えている。

 最近、円が従来と違った動きを見せている。世界経済が悪化すると円高、良くなると円安である。円が日本経済の実態ではなく、欧米や新興国への投資を一時控えるための待機場所としての性格を強めている。円は、受動的な評価しか得られず世界の中でその位置づけを変化させている。星座の形が変わってきたのだろうか・・。

Center Network

生活研-日本の明日を担う共同作業の場-

(社) 生活経済政策研究所
専務理事・上席研究員 大門正彦

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 (社) 生活経済政策研究所は来年、その前身である平和経済計画会議が発足してから50年、(社) 生活経済政策研究所となってから15年を迎えます。「平和経済」から「生活経済」へと名を改めて以降、「平和」も「生活」も「経済」も危うくなる中で、生活研は、社会的公正と民主主義の発展をめざすことを基本理念として、市民、学者、労働組合、消費者団体、政党、国会議員等の協力の下で、働く人びとや市民の生活の向上に寄与し、日本における民主主義と市民社会の発展に貢献するための調査研究活動を行ってきました。 これまで、常時3~4程度の研究会を設置して調査研究に取り組むとともに、その成果を、月刊誌「生活経済政策」や各種出版物、シンポジウム等を通じて発信しています。

 生活研の前身である平和経済計画会議の基盤を築かれた故大内力先生が、『埋火-大内力回顧録』の中で、生活研の活動について、『日本に限らず世界のことにも十分目を配って、いわば「人間」のあり方について、その生活の安定なり、望むらくはより一層の充実なりについて積極的な政策内容を具体的に構想し、広く世論に訴えていくような活動』を期待すると述べておられます。現所長である大沢真理(東京大学社会科学研究所教授)と前所長の神野直彦(東京大学名誉教授)が、それぞれ所長就任の挨拶に引き合いに出されていることからも、まさにこの言葉こそが、生活研の活動の原点であるといえます。

 昨年の政権交代により、生活研を支えていただいている政治家からも政権の担い手が生まれ、政策ブレーンとして生活研の研究者理事や研究会メンバーが数多く、府省の顧問や審議会委員などとして政権の中枢でご活躍されています。これもある意味では、この間の真摯な生活研の活動の成果だといえるかもしれませんし、少なくともこれまで以上に生活研の発信力が高まっているといえるのではないでしょうか。

 生活研は引き続き、多様な個人や団体の共同作業の場として、時代の岐路にあって、21世紀の日本を人間の生活にふさわしい社会にするために、より積極的に政策提言を行っていきたいと考えています。

 山口二郎、宮本太郎の両教授に理事をお引き受けいただいている関係もあり、北海道大学とは、これまで数多くシンポジウムを共催させていただいています。これからもよろしくお願いします。

 なお、生活研の活動の詳細は、生活研ウエブサイト(http://www.seikatsuken.or.jp/)でご覧になれます。また、メルマガ読者も募集中です。

Information

  • 11月1日(月)14時から北海道大学サステナビリティ・ウィーク2010の行事の一環として、千葉大学法経学部教授・広井良典先生を迎えてシンポジウム「グリーンな福祉国家は可能か―成長と社会保障のポリティクス―」を行います。広井先生のご講演の後、パネルディスカッションに本学の山口二郎教授、宮本太郎教授が加わります。
    詳細は高等研HPをご覧下さい。

Staff Room●Cafe Juridique

M a s t e r● 折しも炎暑の夏。36度を超える京都の出張から戻ると、札幌でも25年ぶりという熱帯夜にうんざり。7月の参議院選挙では経済基盤の弱い地方で再び「乱」が起きた印象ですが、巻頭インタビューでは崩壊しつつある土建国家の行方を扱いました。本号の編集からは、新しいセンター秘書の川瀬さんが大活躍。助かりました。

G a r s o n● 数年前、難民支援をしている方が「難民にとって幸せとは、明日に不安のないことだ」と言っていた。私は、曲がりなりにも先進国と呼ばれる国に生まれ育ちながら、日々明日に不安を持って生きている。意味が違うのではないかとお叱りを受けそうだが、かつては遠く第三世界の話として見聞きしていたことが、すぐ隣にある現実であることを感ぜずにはいられない今日この頃である。

 

Hokkaido University ●The Advanced Institute for Law and Politics

J-mail●第33号
発行日●2010年8月10日
発行●法学研究科附属高等法政教育研究センター[略称:高等研]

〒060・0809 ●北海道札幌市北区北9条西7丁目
Phone/Fax●011・706・4005
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