シンポジウム「構造改革は日本を救うか?」

濱田康行●北大経済学研究科教授
金子勇●北大文学研究科教授
山口二郎●高等研センター長

●主催:高等法政教育研究センター

報告

 政府の経済財政諮問会議が発表したいわゆる構造改革の「骨太方針」をもとに、小泉政権が進めようとしている構造改革について、経済、社会、政治の各方面から批判的な論評を加え、あるべき改革の方向性について会場からの意見も交えて討論を行った。

 濱田教授は、諮問会議の改革論における「市場観」が極めて一面的で、改革の理念が浅薄であることをまず批判した。そして、具体的な改革や政策転換については、インフォームド・コンセントが必要であることを強調した。また、市場原理、競争原理によって経済社会を再編成した場合に起こるであろうコストについて、所得格差の拡大が大衆の消費の減退をもたらし、結局経済の活性化につながらないことを指摘した。

 金子教授は、いままでの高齢社会の研究をもとに、構造改革論議の中で少子高齢社会化という現実が的確に反映されていないことを指摘した。また、自己決定の拡大というスローガンのもとで、女性の生き方や家族のあり方について特定の価値観が押し付けられていることを批判した。

 山口センター長は、小泉政権の政治基盤を分析し、現在の自民党の矛盾が構造改革によって深まることを指摘した。また、構造改革は日本の保守政治のシェイプ・アップを目指すもので、実行しようとすれば大きな軋轢を生み、政治の再編のきっかけになるであろうとの予想を述べた。

 会場からの質疑の中で、構造改革と大学改革との連関について質問があった。これについて濱田教授から、大学と産業の連携により新規ビジネスを興し、雇用を作り出すとの諮問会議の提言は、きわめて安易なもので、経済失政のツケを大学に回すものという批判があった。

 専門的なテーマで、周知期間が短かったにもかかわらず、百名を越す聴衆が集まり、質問も多く寄せられた。従来文系各学部間の学際的な討論の機会はあまりなかったが、総合大学にふさわしい多面的な議論ができたと考える。