公開シンポジウム「韓国における地方自治体の合併からの教訓」

「韓国における地方自治体の合併からの教訓」

現在、日本では市町村合併が大きな問題となっています。 隣国韓国では、1995年1月(第1次)と5月(第2次)に大規模な地方自治体(市と郡)の合併が行われました。姜瑩基教授は、韓国忠北大学で地方自治論を講じる行政学研究者です。 韓国の自治体合併はどのようになされたのか。その教訓は何か。 比較の視座から市町村合併について考えを深めていきたいと思います。

【第1部】

 基調講演 姜瑩基●韓国・忠北大学教授

【第2部】 質疑応答

コメンテーター
 山口二郎●高等法政教育研究センター長
司会
 魚住弘久●北海学園大学法学部助教授
コーディネーター
 清水敏行●札幌学院大学法学部教授

※本シンポジウムの講演・質疑応答はすべて日本語で行われます。

◆日  時: 2003年1月21日(火)18:00~20:00(開場17:30)
◆会  場: 北海道大学百年記念会館
       札幌市北区北9条西5丁目(北大正門より入り右手)
◆問合せ: 北海道大学法学部   電話 011-706-3119

※入場無料、参加ご希望の方は直接会場へお越し下さい。
※自家用車は構内に乗り入れできませんのでご了承下さい。

レジュメ

 レジュメ (WordFile)

報告

 姜教授は、韓国における地方自治体改革にも実際に関わってきた韓国地方自治学会の会長である。この報告は、一般論としての地方自治体のありかたから、具体的な改革の事例までが議論される充実した内容であった。姜教授は、ノムヒョン政権下においても大いに活躍することが確実視されているだけに、その発言には重みと勢いが感じられた。この報告では、まず地方自治体の適正規模をはかる重要な指標、また都市の適正規模に関する観念の歴史的変遷が説明され、その観点から見ても日本の地方自治体は既に適正規模が失われているとした。次に、現代の状況を述べるに際し、「電子民主主義時代」の到来が新たな条件となるとし、「区域の大きさを決定する最も重要な要素は、民主的な参加のための規模ではなく、能率的な経営のための規模」に求められ、規模経済に基づく議論がポイントだとした。そして意識の面でも過去の農耕時代につくられた狭い土地を境界にした「共同社会」の概念を乗り越え、IT時代に適合した新しい地域共同社会(community)の概念を確立することが主張される。こうした意味で昭和三十年代の大合併時代に作られた日本の自治団体の区域も批判の対象となってくる。そして、適切な合併の利点、問題点が整理された後、韓国における合併事例が紹介された。韓国の人口は約4,500万人、自治体を見ると広域自治団体がソウル市をはじめ16、日本の市町村レベルの基礎地方自治団体が232である。基礎地方自治団体は市と郡および自治区で構成されているが、合併の対象は主に市と郡である。これまで4回にわたって合併が推進され、以前の66の市と136の郡が、2001年3月1日現在には、71市と87郡となった。ここで成功例として挙げられたのは、全羅南道麗水市である。同市は98年4月1日には人口が18万8,300人、近郊の麗川市は7万9,890人、同じく隣接する麗川郡が6万2,400人余りであったが、これを合併して一つの麗水市とした。麗水市では94年と95年には住民意見調査で反対が多く合併に失敗したが、市民団体の主動で合併を成功させたという。姜教授は、これらの合併過程での教訓として、指導者層の役割の重要性(全羅南道順天市合併における代議士)、市民団体の主導的役割の重要性(上記麗水市の事例)、客観的な情報提供、地域の将来の発展を共感・共有する勢力形成、などを挙げる。日本への提言は、「新しい大陸を発見するため」に、「今までの見方を変えなければならない」ということにあった。日韓が共同で地方自治体問題を議論し、相互交流していくことが今後の課題となろう。なお、韓国の大統領選挙直後に講演がおこなわれたこともあり、会後には選挙関連の議論が活発におこなわれたことを申し添えておきたい。

(川島 真)