公開シンポジウム 「帝国/グローバル化時代のデモクラシー」

21世紀はデモクラシーの世紀か<Ⅱ>―帝国/グローバル化時代のデモクラシー―

アメリカの「帝国」化やグローバル化といった動きが進む中、各国の実質的な政治的決定も、国境を越えた枠組みのもとで行われるようになってきている。
伝統的に一国の枠内で作動してきたデモクラシーは、これからいったいどのような変容を迫られるのか。
政治・経済・社会各分野のエキスパートをパネリストに迎え、日本の今後に焦点をあてて検討を試みる。
 
◆パネリスト:
  ロナルド・ドーア●ロンドン大学名誉教授
  田中秀征●元経済企画庁長官・福山大学教授
  ゲーリー・ガーストル●米国メリーランド大学教授
  中村 研一●北海道大学教授
◆コーディネーター:
  遠藤乾●北海道大学大学院法学研究科助教授
 
ロナルド・ドーア

1925年英国生まれ。ロンドン大学教授を経て現在名誉教授。日本学士院客員。
ロンドン大学在学中より日本研究を専攻、たびたびの来日で日本の農地改革や企業社会について調査・研究を重ねる。グローバル化時代を射程におさめながら、日本の社会経済研究をリードする社会学者のひとり。『都市の日本人』『学歴社会』等、著書多数。
田中秀征
1940年長野県生まれ。元経済企画庁長官、福山大学教授。
東京大学文学部・北海道大学法学部卒。衆議院議員当選3回。1993年「新党さきがけ」結成に参加。細川内閣発足に伴い内閣総理大臣特別補佐、第一次橋本内閣では経済企画庁長官を務める。経済政策研究会主宰。主著に『舵を切れ 質実国家への展望』等。

ゲーリー・ガーストル

1954年生まれ。米国メリーランド大学教授、歴史学部長。
1982年ハーバード大学歴史学博士号取得。専門はアメリカ史における移民、エスニシティ、ナショナリズムなど。9・11後の社会状況についても発言を続けている。2001年には主著American Crucible についてTheodore Saloutos出版記念賞受賞。

中村研一

1948年神奈川県生まれ。北海道大学大学院法学研究科教授。2003年より副学長。
東京大学理学部、法学部卒。英・米・印等海外研究機関での研究歴多数。難民問題、マルサス「人口論」、グローバリゼーションなどを研究、地球市民社会への提言を続ける。主著に「帝国と民主主義(坂本義和編『世界政治の構造変動』所収)、『国際政治』(共著)等。

※このシンポジウムは文部科学省科学研究費学術創成研究(2)「グローバリゼーション時代におけるガバナンスの変容に関する比較研究」、および日本学術振興会人文・社会科学振興のためのプロジェクト「グローバル・ガバナンスに向けた知の再編」の一環として行われます。

日  時: 2004年2月7日(土)13:40~17:40(開場13:15)
会  場: 札幌コンベンションセンター 特別会議場 
      札幌市白石区東札幌6条1丁目
●地下鉄東西線東札幌駅より徒歩8分
●札幌駅バスターミナルよりJRバスにて20分(2番乗場12:05発)

 

問合せ: 北海道大学法学部   電話 011-706-3119

●主催
 北海道大学大学院法学研究科附属高等法政教育研究センター
●共催
 岩波書店・(財)札幌国際プラザ
●後援
 北海道対外文化協会

※入場無料、参加ご希望の方は直接会場へお越しください。

 

帝国/グローバル化時代のデモクラシー

●主催:北海道大学高等法政教育研究センター

●共催:岩波書店・(財)札幌国際プラザ 後援:北海道対外文化協会

2004年2月7日 札幌コンベンションセンター

○ 13:40-14:00pm: 冒頭趣旨説明 遠藤乾(北海道大学助教授)

○ 14:00-14:30pm: 基調演説
- ロナルド・ドーア(英国ロンドン大学教授)  
 「帝国/グローバル化時代の自由民主主義
 ―アメリカン・スタンダードのポリティクスを中心に―」

○ 14:40-16:10pm:
- 田中秀征(元経済企画庁長官、福山大学教授)
 「帝国/グローバル化時代における日本の自由民主主義」
- ゲーリー・ガーストル(米国メリーランド大教授)
 「帝国とグローバル化の時代―アメリカ歴史学の見地から―」
- 中村研一(北海道大学教授)
 「帝国を抱きしめて―ナショナルな自由民主主義を超えて―」  
              ※報告タイトルはいずれも仮題

○ 16:20-17:35pm: 円卓討論(司会:遠藤乾助教授)
- ロナルド・ドーア教授
- 田中秀征教授
- ゲーリー・ガーストル教授
- 中村研一教授
- ディスカッサント:川崎修(立教大学教授) 他

○ 17:35-17:40pm: 閉会挨拶

- 山口昭男(岩波書店社長)

 

Liberal Democracy in a Global & American Era

Organised by
The Advanced Institute for Law and Politics, Hokkaido University
On the Occasion of the 90th Anniversary of the
Iwanami Publishers, Inc.

Convention Centre, Sapporo, Japan, 7 February 2004

○ 13:40-14:00pm: Welcome Speech, Professor Mutsuo Nakamura, Chancellor of Hokkaido University

○ 14:00-14:30pm: Keynote Speech

- Professor Ronald Dore, London School of Economics, UK.
‘Liberal Democracy in the Age of Global & American Standards.’

○ 14:40-16:10pm

- Professor Shusei Tanaka, Former Minister of Economic Planning Agency & Fukuyama University, Japan.
‘Rethinking Liberal Democracy of Japan in a Global Era.’
- Professor Gary Gerstle, University of Maryland, US
‘Democracy in a Global and American Era - An American Perspective.’
- Professor Kenichi Nakamura, Vice-Chancellor, Hokkaido University, Japan.
‘Embracing Empire: Beyond the National Perspective of Liberal Democracy.’

○ 16:20-17:40pm: Roundtable Discussions

Chair: Prof. Ken Endo, Hokkaido University
- Prof. Ronald Dore
- Prof. Shusei Tanaka
- Prof. Gary Gerstle
- Prof. Kenichi Nakamura

要 約

 シンポジウムでは、遠藤乾氏(北海道大学法学部助教授)により、趣旨説明として以下の点が議論の素材的論点として提示された。

①現代の国際政治においてアメリカの<帝国>的性格すなわち軍事的政治的経済的な優位性

②そのアメリカさえもがグローバル化により移民・テロ・伝染病・コンピューターウィルスなど越境的な国際問題にさらされている

③これらの越境的な問題に対して有効な枠組(越境的政治決定)が議論されていないこと

④デモクラシーの問題としてはさしあたり国民主権的なモデルしか想定されておらず越境的問題の解決にデモクラシーがいかなる点でアプローチできるのか(代議制民主主義の限界)、また市民社会や民衆と国際化する問題との接点をデモクラシーという視点からどのようにアプローチするのか、今後検討が必要であること

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 以上の趣旨説明を受けて、ロナルド・ドーア氏(ロンドン大学名誉教授)からは、「グローバル化する世界における民主主義への脅威」と題された基調講演が行われた。講演では、民主主義という用語が、国際政治の場面では「応援の言葉(発言者の主観が入る)」として用いられており、そのため価値付加的な用語であることが確認された。その上でドーア氏の定義として「選挙の時、流血せず政権交代が実質的に可能であること、常時、時の政権者に対抗する者の言論・集会の自由が、独立した法廷・警察に守られていること」等、国民国家内の民主主義的条件について定義化が試みられた。またドーア氏は、グローバル化についても現象面、越境関係、歴史的段階の三つの層におけるグルーバル化の定義化を試みており、以上の定義をふまえて、現代のグローバル化に伴う課題を「民主主義への脅威」として四点から整理した。その四点とは以下のとおりである。

① テロと基本的人権の侵食

② 政策課題の技術的複雑化

③ 国民の同質性

④ 経済主権の侵食による、国家の無力化・制度選択の自由の損失

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 また田中秀征氏(福山大学教授)により、「<グローバル化/帝国>の中の日本の集団安全保障」と題し、最近のイラク派兵の問題を中心とした、日本の安全保障政策を基にした民主主義の課題が報告された。田中氏の報告によれば、日本の安全保障をめぐる国会の議論では、「集団的自衛権」の行使を現行憲法とどのようにすり合わせるのかという議論が、与党や野党においても危うさを含むものであることが確認された。その上で、日本の憲法が、国連憲章との補完的な安全保障体制を前提にしているものであることが田中氏によって確認された。しかし実際には、国連を中心とした安全保障体制は未完成に終わり、現実的には「超大国による安全保障」すなわち集団的自衛権の行使によって国際紛争が解決される例が多く、その積み重ねによりアメリカが結果として軍事的な<帝国>として台頭してきたという点が報告された。以上のような国際状況をふまえ、安全保障をめぐり、国際的な関係において民主主義を論ずる場合、以下の三層からの民主主義を検討する必要がある点が提案された。

① 国内民主主義

② 国際民主主義(無国籍な問題:人権・環境問題・女性の社会進出等)

③ 国家間民主主義

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 またガストール氏(メリーランド大学教授)からは、「グローバリゼーションとアメリカン・ヘゲモニーの時代における民主主義への脅威」と題して、現代のグローバル化やアメリカ中心のヘゲモニーの形成がどのような歴史の過程をたどったのかという点について、四つの段階に区分して歴史的考察がなされた。その時代区分とは以下のとおりである。

① 19世紀のパックス・ブリタニカ

② 第一次第二次大戦両対戦期におけるグローバル化の形成と崩壊

③ 戦後米合衆国指導のもとのに形成された「自由主義世界」グローバルシステム

④ パックス・アメリカーナ(民主主義的統治)に対して敵対的な国際秩序

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 以上の報告により、少なくとも戦後から70年代までは、冷戦の影響などもあり、「自由主義的世界」グローバルシステムが国民国家の形成や資本主義の発展、反植民地主義的運動へ貢献し戦後の世界秩序の基盤となっていた点が確認された。しかし、それ以降は、オイルショックなど経済的な問題により社会民主主義的な統制への疑問が生じ、また80年代には電子部門の発達により資本・市場の規模拡大が急激に行われたこと、さらにはソビエト連邦の崩壊により「冷戦の終結」を迎えたこと、以上の点から、「自由主義世界」グローバルシステムが変更を迫られ、今日的なアメリカの帝国化とグローバリゼーションの時代に取って代わられたことが確認された。

 ガストール氏は、またこれらのアメリカ中心の「グローバル権力」を押さえ込む可能性として、「イスラム急進派」「対抗的国家・ブロック群」「国際的な社会運動と統治機構」をとりあげた。また「資本主義を統合し米合衆国のグローバル権力を抑制する方策」として以上の三点を、社会民主主義の視点から主張することがグローバル時代における課題である点を指摘した。

 中村研一氏(北海道大学副学長)からは、「帝国を抱きしめて-世界権力と民主主義の将来」と題する報告が行われた。中村氏は、旧来植民地主義的な帝国として理解されなかったアメリカが<帝国>として批判されてきている点を指摘した。その理由として中村氏は、強大な軍事力をもとに「世界の警察官」としてアメリカが国際社会で振舞っていること、国際政治の側面では経済力や軍事力・政治力などによって、アメリカが「世界の(失格な)裁判官」として振舞っている点、以上の点をあげた。また中村氏は、アメリカが<帝国>化する一方で、グローバルな問題(核による人類の共滅、環境問題、難民の問題など)に意図的に対応しない、うまく対応できない領域が発生している点を指摘した。このような状況をふまえ中村氏は、グローバル・デモクラシー(世界民主主義)という観点から、以下のような点を今後の課題として提起した。

① 国家の統治機構や代議制の拡大だけではグローバルな問題解決にたる制度は考えることはできない

② 核兵器・生態系の危機回避・難民問題の解決のための資源集中・協調のための政治過程・その結果の正統性のあり方

③ 国民国家の枠内における政府と市民社会の乖離による政治社会の制度枠組みの空洞化

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 また中村氏は、以上の問題をふまえつつ、権力の譲歩、政治社会の活性化、地球市民という三点を今後の問題解決の糸口として指摘した。

 以上の報告をもとに、ディスカッサントと会場からの質疑を交え、遠藤乾氏の司会によって円卓討論が行われた。

 川崎修氏(立教大学教授)は、グローバル化の概念規定の必要性、民主主義と「平等」の概念的な関係の検討、なぜ民主主義が必要なのかという観点を中心に報告された議論の課題を提示した。

 遠藤誠治氏(成蹊大学教授)は、基調講演や報告が、以下三点の論点を中心に整理されるとした。

① アメリカの<帝国>化をどう理解するのか、コントロールは可能かという点

② グローバル化をどう理解するのか・国家の力を奪っている力をどのように理解するのか

③ ネイションなもののみが対抗策か

 このような論点をふまえたうえで、遠藤氏は、地域に根ざした対抗的市民社会の構成が、「世界社会フォーラム」を手がかりとして、今後課題となる点を指摘した。

 山崎望氏(日本学術振興会研究員)は、報告をふまえ、グローバル化によりパブリック・プライベートという問題がどのように変化しつつあるのか、無国籍民主主義と定義されたものにネガティブな側面はないのか、多文化の規範性と社会的排除の問題の間にはどのような関連があるのか、という点を今後明確にすべきとの課題提示を行った。(中俣記)

●時宜に適った大変面白いテーマであった。大方のパネリストの意見は、グローバル化と民主主義をつなぐ鍵は市民や社会運動にあるという点で、ほぼ一致していたように思われる。
ただ、ドーア氏が指摘されていたような高度なテクノロジーとそれを体現したテクノクラート(技術者や官僚)を、いかにこの間に位置づけるのかが重大な問題ではないか。(神戸市灘区 大学教員)

●個人的にこれまでいくつかの有名企業や中小企業で働いてきました。食品関係が多かったのですが、安全なイメージをふりまきながら不衛生で添加物づけのものを製造・販売しており、人間関係もメチャクチャ。ヒューマンライフも連帯性も、ウォールマートの例ではありませんがひどいものが多かったです。資本主義の枠を越えた自給による有機農業により、デモクラシーや連帯性を追求していきたいと思います。(札幌市北区)

●グローバル化時代のデモクラシーの変容について教えられる事が多かった。日本全体が右へ傾斜する傾向の中で、対立する帝国とデモクラシーについての歴史的な教訓を示唆するものとして、貴重なシンポジウムであった。(札幌市厚別区 無職)
グローバル化時代、今後、地球上においてどう進んでいくのか。特に米・英の先生の分析が大変勉強になりました。(札幌市厚別区)

●現在の世界的問題・課題に対して的確なご意見を拝聴できて大変有益でした。資料を再読してじっくりと考えてみたいと思っております。(札幌市豊平区 無職)
今の時代を考えるのに、とても参考になりました。(札幌市東区 無職)

●ブラジル・ポルトアレグレでの「世界社会フォーラム(WSF)」へ行ったことがあるので、“もう一つの世界”は印象的な言葉です。(江別市)

●グローバル化時代のデモクラシーの行方について大いに学ぶところがありました。特に“新帝国”といわれる米国のとらえ方について中村研一教授のお話が私にとっては新鮮なものでした。ガーストル教授の“ブッシュ政権観”も参考になりました。田中秀征教授の現実政治に関わられた生々しいお話もききものでした。ありがとうございました。(札幌市北区 無職)

●三大キーワードを組み込んだ本テーマはやや欲張りすぎではなかったか。とくに「帝国/グローバル化」のスラッシュが“and”“or”“vs”“from/to”のいすれか最低限の方向付けがあっても良かったのではないか。そのため「帝国」については―せっかく面白い問題提起なのに―含蓄の深さが議論されなかったような気がする。(札幌市中央区 大学教授)

●ローバルな力による自衛隊の派遣などで、北海道をはじめとする地方への影響も現れてきている。今回のシンポのテーマや時間的制約を十分にふまえた上で言えば、やや大きな視点からのお話が多かったと思う。「帝国」や「グローバル化」などの大きなテーマは大事なものではあるが、一般市民には理解しにくいものでもある。もう少し、身近な問題と関連させることも必要かと考える。(札幌市東区 学生)

●それぞれの報告内容が充実しており、議論も深かったと思う。川崎修先生のコメントは面白かった。(札幌市 学生)

●テーマが「帝国」だったので、ディスカッサントの川崎先生が「帝国」について言及する前に時間切れだったのは残念でした。全体としては、多数の視点が出てきましたが、世界を読み解いていく際に役立てていこうと思います。(札幌市北区 学生)