公開シンポジウム「市民社会の構築」

篠原一●東京大学名誉教授

●主催:高等法政教育研究センター
●共催:(社)北海道雇用経済研究機構

報告

長期的視点に立てば我々は第一次近代から第二次近代への途路にあると言えよう。そこではU.ベックの言う「個人化」の進展によって、一方では自己実現の可能性が増すとともに、他方では原子化として未熟な個人も生み出されて来る。従ってそこで、私的なものを出発点にしながら公的なものを自分達で作って行く市民社会の存在が大切になる。政治社会、経済社会と並ぶ第三の分野としての市民社会である。これからの市民社会の構築にあたっては二つの点に着目したい。ひとつは人のネット・ワークとしての社会資本の重要性である。従来の社会資本と区別する意味で「社会関係資本」と呼んだ方がよいかも知れない。種々の公的制度が成功するか否かの鍵がこの「社会関係資本」なのである。第二にそうした形で市民社会を立ち上げる際の方法として、協議と討議を民主主義の中心に据えることである。社会的学習と合意形成の場として市民社会を構築する姿勢はハーバーマスから最近のドライセックにいたる、新しい民主主義論に一貫している。