講演会「憲法と宗教 -憲法解釈方法論の一事例-」

アントニン・スカリア●合衆国連邦最高裁判所裁判官

◆主催:高等法政教育研究センター

 

報告

 2月5日に、合衆国最高裁判所のアントニン・スカリア裁判官を迎え、「憲法と宗教――憲法解釈方法論の一事例」との題目で講演会を行った。

 直接的には合衆国憲法第一修正の宗教条項の解釈をめぐる一連の判例が検討されたが、これを題材として、憲法の解釈方法について論じられた。まず、憲法解釈の4つの指針として、(1)憲法の文言、(2)制定時の原意、(3)伝統、(4)不変性・安定性を挙げ、この順序で優先されるべきとする。

 宗教的問題の判断にあたって、裁判所が抽象的ルールの形式的適用によって判断することがしばしばある。例えば、Texas Monthly, Inc. v. Bullock判決(489 U.S. 1, 109 S.Ct. 890(1989))において問題となった宗教的出版物に対する消費税の免除は、歴史的にも地域的にも広く行われてきたものであるが、にも関わらず法廷意見は従前の判例法を形式的に適用して違憲とした。スカリア裁判官は形式的抽象概念の運用には反対ではないとしつつ、しかしルールは憲法の文言に基づくべきであるし、それ自体が明らかでない場合には、関連する、確立した慣行に従うべきだとする。判例法と長年の伝統とが抵触する場合には、後者ではなく前者こそが譲るべきであり、のみならず、かかる慣行こそが司法部が判例法を引き出す元となる素材であるとする。

 また別のアプローチとして、伝統と判例法が抵触する場合、前者を有効としつつ、後者も修正しない、という判断がなされることもあるが、スカリア裁判官はこれも誤りであり、判例法ルールを社会による憲法の歴史的な理解に従って修正すべきだとする。例えば、Sherbert v. Verner判決(374 U.S. 398, 83 S. Ct. 1790(1963))の判例法は、政府にやむにやまれぬ利益がなければ人民の宗教的活動を妨げることができないとしていたが、同判決の以前も以後も裁判所は多くの例外を作り出していた。かかる判例法は大言壮語もいい所であり、最終的にSherbert判決が覆されたのももっともだとする。

 講演後の質疑においては、かかる憲法解釈方法論の日本における適用可能性などが議論された。これらを通じて確認された点として、スカリア裁判官のアプローチは慣習それ自体が法源だとするものではなく、あくまでも、文言が曖昧な場合にそれを明らかにするための指針として位置づけられること、この方法論は直接には合衆国憲法に関わるものであるが、如何にして裁判官の恣意を廃しその判断を枠付けるかに関心を有するものであり、他の民主的に採択された憲法を有する諸国にも同様の問いと回答が可能であること、を特に挙げておく。

 アメリカ合衆国の高名な法律家による講演とあって、事前から高い注目を集め、平日の午後という時間帯にもかかわらず、大学関係者や学生のみならず、裁判官・弁護士を含む多くの市民の方にお集まりいただき盛況であった。講演後の質疑においても短時間ながら実のある議論を行うことができ、充実した講演会であった。

(会沢 恒)