ごあいさつ

法学部長・大学院法学研究科長 尾﨑一郎

札幌農学校に起源を持つ北海道大学の建学の理念が「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」であることはよく知られています。法学と政治学を講じるわが北海道大学法学部についてもこれらの理念は確かに受け継がれています。

しかし、法学・政治学は、決して表面的な「実学」にとどまるものではありません。むしろ古代ギリシャ、古代ローマ、あるいは古代中国にまで遡る、人類の叡智の結晶が政治学であり法学です。社会の「制度」を設計し具体的な社会問題を「解決」する実践的な手続やルールの正しさや意味や機能をめぐって歴史的蓄積に蓄積された、繊細にして創造的な知性の躍動がそこにはあります。哲学、歴史学、言語学、宗教学などの人文学はもちろんのこと、経済学や社会学をはじめとする社会諸科学との連関ぬきに、法学・政治学を語ることはできません。法学・政治学は言わば人間が作り上げてきた人知の泉です。そのことを知る者のみが、法に習熟しデモクラシーを生きることができるのです。

とりわけ近代以降においては、人間の人間による人間のための秩序形成のために法学・政治学の役割はいや増すばかりです。それなくして、私たちは秩序ある世界に生きることができません。

北海道大学法学部は、日本に数ある法学部のなかでも、このような法学・政治学の性格を最もよく理解し研究している学者と実務経験者によって組織されている希有な場所であると、自負しています。そうした特性は教育にも大きく活かされています。北大法学部の門を叩き入学した者は、直ちにそのことを実感することになるでしょう。

日本において「北の大地」と言われる北海道ですが、視野を地球大にとれば、決して極北でもなければ、極東でもありません。私たちが暮らすこの「大地」の周囲には大きな海洋と大陸が広がりその先をたどれば古代文明の発祥の地にも近代世界においてヘゲモニーを握る文明にも容易に繋がります。人生の一時期、広い視野を持ちながら、札幌という勉学に最適な環境の街で、古今東西の社会に思いを巡らすのも一興です。年齢、ジェンダー、国籍を問わず、クラーク博士が言うところの「高邁な大志 (lofty ambition)」を抱くすべての人々の入学・来訪を心より歓迎します。

法学部長・大学院法学研究科長 尾﨑一郎